「キャパシティ・ディベロップメント」、「キャパシティ・ビルディング」。一般に「能力強化」と訳されるこの言葉は、援助業界に身を置く者にとっては避けて通れない言葉であろう。同時に筆者にとっては、長年わかるようでわからないような曖昧な言葉であった。恐らく一般的には「様々な形式で様々な専門家の卵たちに研修を行う」、「現地政府関連機関に技術支援をしながら政策策定ともに行う」などのことを示すのだろう。
今回は、そのような自分の中で曖昧な理解であった「キャパシティ・ディベロップメント」という言葉がすとんと自分の中で落ちたときの話を紹介したい。
一つは、在エチオピア日本大使館 に務めていたときのことである。ドナーとして「草の根・人間安全保障無償資金協力」の監理を担当していたときのことである。NGOの選定から、援助合意後NGOの資金の使用状況から案件の進捗までかなり厳しく監視・評価を行っていた。スキームの制約が多いこと、また当時、「不良案件」と呼ばれる過去の未完了案件を 抱えていたことから、自分の倍以上の年齢の男性を相手に時にはかなり厳しい指導をしたこともあった。
案件が無事に完了し、これまでのプロセスについて振り返ったときのことだった。「いつも厳しく接して申し訳なかった」と挨拶をしたところ「君と働くのは厳しいが、守らないといけないことやドナーと仕事をする上で大切なことを沢山学んだ。君と働くことが自分にとっても組織にとってもキャパシティ・ディベロップメントのプロセスになった。これからどんなドナーに予算申請書を出すときも自信を持って応募できるよ。ありがとう」という言葉をもらった。「自分と仕事をすることを通して人と組織のキャパシティ・ディベロップメントに貢献する」。この言葉の意味がすとんと自分の中に落ちたと同時に、気が引きしまる想いであった。
同様のことは、現在の職場(国連ウィメンカンボジア事務所)でも起きている。筆者のような国際スタッフは、「仕事を通して現地職員のキャパシティ・ディベロップメントに貢献すること」が期待されている。実際の職場では、筆者のような若手職員にとって、現地職員から学ぶことは非常に多く「キャパシティ・ディベロップメント」と名乗り偉そうなアプローチをすることはない。他方、自分が気になった点は、コミュニケーションに注意をしながら、対等な立場で議論を行うよう心がけている。国連全体の脱中央集権化(decentralisation)が進む中で、質の高い現地職員の育成「キャパシティ・ディベロップメント」の重要性は更に増していくためこのような実態のある「キャパシティ・ディベロップメント」は積極的に行われていくべきであると考える。
「外から来た援助ワーカー」と仕事をすることを通した「現地のプロ」の「能力強化」。これが筆者の心にすとんと落ちた「キャパシティ・ディベロップメント」のひとつのあり方であった。