水資源の適切な管理は、持続可能な開発目標(SDGs)が扱う多くのセクターへ影響するトピックかもしれない。12月14日のワシントンDC開発フォーラムの勉強会のテーマは、「開発途上国の安全な水へのアクセス-現状とJICAの取り組み」だった。ここでは議論のまとめを簡単に紹介したい。
SDGsの水分野へ、JICAの挑戦
SDGsが採択され、かなり網羅的なゴールやターゲットが定められた。一方、各ターゲットに関するモニタリングや指標をどうするかは合意されておらず、順次決まっていくこととなる。
指標に関する大きな課題は、データ収集にある。特に多くのアフリカ地域では、安全な水へのアクセスに関する既存のデータが少ない。SDGsの達成状況をモニタリングするために膨大な予算をデータ収集に割くことは本末転倒だ。こうした状況を鑑みれば、現状では全ての指標をモニタリングすることは難しいのかもしれない。
国際協力機構(JICA)は次の四本柱に取り組んでいる。水業界で今もっともホットなのが統合的水資源管理である。これまでは、水セクターは「水屋さん」の領域だったが、水に携わる関係者はかなり多い。上下水道はもちろんのこと、農業、防災、保健など、省庁・機関横断的な課題であることは想像しやすい。既存の縦割り行政へ挑戦状をたたきつけるのが統合的水資源管理であり、より効果的な水資源管理を実現するための試みとして注目を集めている。
- 安全で安定した水の供給
- 生命・財産を守るための治水向上
- 水環境の保全
- 統合的水資源管理の推進(1~3を包括的に実施)
水資源管理をビジネスとして成立させる秘訣
無収水(Non Revenue Water)の割合を減らすことが、持続可能な水資源管理の成功のカギとなる。つまり、供給コストを下げ、売上をあげることがビジネスとして水供給を成り立たせる秘訣というわけだ。開発途上国における無収水の原因は、主に漏水、盗水、料金徴収、量水器管理の不備などであることが多い。
日本は無収水が極めて少なく、世界トップクラスの効率性を維持している。イギリスやアメリカなどの先進国でさえ開発途上国並みに無収水が多く、日本が世界に誇れる技術とサービスを兼ね備えていると言える。日本のパフォーマンスが高い理由は、メンテナンスへの意識の高さ、品質管理のきめ細かさなどにある。
また、日本の水分野の大きな特徴は地方自治体の専門家が活躍していることだ。地方自治体が開発途上国へ技術協力している例は世界中を探しても珍しい。たとえば、東京都、横浜市、北九州市は、水分野の専門家を派遣し、開発途上国の実施機関の技術向上に貢献している。こうした流れは、地方活性化やオールジャパンとしての国際協力といった観点からも良い事例と言えそうだ。
水道料金を払えない貧困層への配慮
水セクターでは、貧困層への配慮も欠かせない。毎年180万人の子供が下痢で亡くなっており、きれいな水へのアクセスがあれば助かる命が日々失われている。
水セクターを取り巻く課題は深刻だが、同時にジレンマもある。水資源管理を持続可能なシステムとして成立させるためには、ビジネスとして成功させる必要がある。一方で、料金を払えない人々に対して水を供給することも大切だ。ビジネスとして持続させなければ、開発パートナーや地元の有力な政治家の「一声」がなくなれば、水の供給がなくなってしまう。それでも、一時的な対応で終わってしまっては意味がないので、事業として成り立つかを第一に考える必要がある。
開発途上国でよく見られるのは、政府の政策で貧困層向けに無償で水を供給したり、補助金を出している例がある。水供給を持続可能なものとするための努力をする一方、貧困層への配慮を含めた包括的な取り組みを実施していくことが最も現実的な解決策なのだろう。
こうした取り組みを実現するための後押し(資金提供・計画策定)をすることが開発パートナーの役割なのだろう。民間セクターも交えてビジネスとして成功させる方策を練ると同時に、省庁横断的な議論の中で貧困層への配慮をどう盛り込むか考えることが大切かもしれない。