「宇宙船地球号」 ― 地球の限りある資源の下、我々はどのような行動をとっていくべきか。地球が一体となって取り組むべき国際目標SDGsのベトナムにおける状況を、JICA青年海外協力隊としてベトナムの農村開発支援NGO「VIRI」で活動中の山田邦永が紹介する。
ベトナムにおけるSDGs達成に向けた取り組みの枠組み
ベトナム政府による取り組みの枠組み
2003年、ベトナム政府は、MDGsを考慮した貧困削減及び成長の包括的な戦略(Comprehensive Poverty Reduction and Growth Strategy: CPRGS)を策定することで、MDGsをローカライズした。CPRGSは、ベトナム政府の社会経済開発10カ年戦略、社会経済開発5カ年計画、その他各分野における開発計画を、持続可能な開発の実施に向けた明確に定義されたロードマップとともに具体的な手法にまで落とし込んだ活動計画である。2015年9月までに、ベトナム政府は8つのMDGsのゴールのうち、貧困及び飢餓の削減、初等教育の普及、教育のジェンダー格差の解消の、3つのゴールを達成し、また、妊産婦及び乳幼児死亡率の低下、マラリア・結核・HIV/AIDS等の感染症対策といった保健に関わるいくつかのターゲットも達成した。
そして2017年、ベトナム政府は、SDGsを考慮した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」実施に向けた国家活動計画(National Action Plan for the implementation of the 2030 sustainable development agenda: NAP)を策定することで、SDGsをローカライズした。NAPの策定にあたり、SDGsの17のゴール・169のターゲットに照らし合わせながら、ベトナム計画投資省主導の下、ベトナム各省庁、地方政府、開発パートナー等と共に、既存の開発戦略、政策、計画が見直された。そこで得られた所見、各関係者からの提案、そして複数回に渡る審議会での議論結果を踏まえて、17のゴール・115のターゲットがVSDGs(Viet Nam’s Sustainable Development Goals)として選択され、NAPに記載されている。またNAPには、ベトナム各省庁の実施責任範囲及び主導すべきターゲットも合わせて明記されている。
ベトナム政府と国連とのパートナーシップによる取り組みの枠組み
2017年、ベトナム政府と国連ベトナムによる、SDGsを考慮した一体的で戦略的な計画(The One Strategic Plan: OSP)が策定された。OSPは、2017–2021の5年間に国連がベトナム政府を支援するプログラム及び運用上の枠組みを示しており、国連がベトナムの国家開発優先事項をどのように支援するかを明確にしている。公平で偏りのない根拠に基づいた助言と支援は、国連が比較優位を有しており、OSPを実施する期間中に最大限の努力を払うべき、重要な領域である。OSPは、ベトナムの社会経済開発戦略(Socio-Economic Development Strategy 2011–2020)、社会経済開発戦計画(Socio-Economic Development Plan 2016-2020)、ベトナム国際人権誓約(Viet Nam’s international human rights commitments)そしてSDGsと、整合性のとれた計画である。
OSPは以下の4つの重点分野で構成され、関連する9つの成果が期待される。
重点分野1: 人々への投資
ベトナムで暮らす人々が、健康となり、教育を受け、貧困のない状態で生活し、自身の最大限の能力を発揮するために、包括的かつ公正な質の社会サービスと社会保護システムを提供する。期待される成果は以下のとおり。
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- 貧困の削減と脆弱性の克服
- 健康格差の解消
- 教育格差の解消
重点分野2: 気候変動への対応と環境の持続可能性の確保
気候変動や自然災害に効果的に対応するとともに、天然資源や環境を持続可能な方法で管理する。期待される成果は以下のとおり。
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- 低炭素社会の実現と気候変動及び自然災害への対応強化
- 天然資源と環境の持続可能な管理
重点分野3: 繁栄の促進とパートナーシップの樹立
全ての人に適切な仕事と機会を確保する、より公正で効率的、包括的な労働市場を創造するとともに、包括的で持続可能な生産性主導の成長モデルへと移行する。期待される成果は以下のとおり。
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- 新しい経済成長モデルの確立
- 包括的な労働市場の創造と全ての人への機会の拡大
重点分野4: 公正、平和の促進と包括的な統治制度の強化
統治制度を強化し法の支配の徹底された社会を実現し、人権が尊重、保護された差別のない、より公正で包括的な社会へ向かっていく。期待される成果は以下のとおり。
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- 参加型意思決定手法の確立と対応組織の強化
- 人権保護、法の支配の徹底、司法アクセスの強化
ベトナム国内におけるSDGs達成状況
SDG Index and Dashboardsによる報告
2018 SDG Index and Dashboardsによると、SDGsの17のゴールのうち、ベトナムにおける達成度合いの指標となるインデックススコアの高いゴール上位3つは、SDG 1. 貧困をなくそう(99.2)、SDG 6. 安全な水とトイレを世界中に(88.4)、SDG 4. 質の高い教育をみんなに(80.7)である。一方で、ベトナムにおけるインデックススコアの低いゴール下位3つは、SDG 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう(25.4)、SDG 15. 陸の豊かさも守ろう(44.9)、SDG 14. 海の豊かさを守ろう(47.3)である。
※括弧内の数値、及び、表中の数値は、各ゴールのインデックススコア
ベトナム政府による報告
ベトナムの持続可能な開発目標に係る自主報告(Viet Nam’s voluntary national review on the implementation of the sustainable development goals: 2018 VNR)において、VSDGsの17の各ゴールについて、NAP実施初期の評価が定量的な指標及び具体的な事例とともに報告されている。また、VSDGsの達成に向けて重要な役割を果たす3つの要因として、1. ベトナム政府の強力なコミットメント、2. すべての利害関係者の関与、3. 国内資源と国際協力を組み合わせた振興、が挙げられている。さらに、以下のとおり、ベトナムで持続可能な開発を実施するにあたって、これまでに直面した困難及び課題、並びに、今後取り組むべき内容が記載されている。
これまでに直面した困難及び課題
- ベトナムは気候変動と突然の自然災害の影響を最も受けている国の1つであり、これはベトナムにおける持続可能な開発の実施プロセスに影響を及ぼす。
- ベトナムは、世界経済へ広範にわたり集中して統合されたことにより、世界の経済変動による影響を受けやすい。ベトナムはまた、多くの社会的、環境的な課題、並びに、相互に関連する新たな課題に直面している。
- 国家予算は依然として限られており、また、ベトナムが低中所得国になったことからODA規模は減少する一方、持続可能な開発の実施には膨大な資金投入が必要である。
- 政策、省庁、政府機関の観点で持続可能な開発は領域横断的、組織横断的な性質を有することから、持続可能な開発を実施するのは困難である。さらに、ベトナムの最新の計画と戦略において、2020年までのターゲット及び2030年までのビジョンは設定されているが、評価を目的とした特定の目標が設定されていない。
- 多くのSDGsの指標に関してメタデータ(概念、内容、計算方法等)が存在せず、複雑な計算方法と従来のものとは異なる情報源からの情報とともに、新たに収集しなければならない。したがって、SDGsの17のゴールの実施状況を管理及び評価することは、ベトナムにとって大きな課題である。
今後取り組むべき内容
- 目的や結果と乖離した政策を継続して改善し、持続可能な開発の実施を促進する。
- 持続可能な開発及びVSDGsに関して、社会において認知度を高め行動を促す。
- 持続可能な開発を実施するために、政治システム全体、省庁、政府機関、省・市、商工団体、一般組織、地域社会そして開発パートナーを巻き込む。
- 持続可能な開発に係る利害関係者、特にベトナム政府、企業、社会政治組織、社会専門家組織、そして国際社会の間の連携を強化する。 NAPの成果を常に管理、評価し、ベトナムがコミットした持続可能な開発のゴールの達成に向けて、施策を特定し効率的な取り組みを相互に共有するため、利害関係者間で連携をとる仕組みを導入し維持管理する。
- 持続可能な開発に係る統計指標の仕組みを開発し、持続可能な開発の成果を管理、評価するためのデータを収集する基盤を強化する。社会経済開発政策を管理、評価、そして計画する段階において、様々な階層のデータとともに各種情報を収集、分析し、活用する能力を強化する。
- 持続可能な開発を実施するための国内外の財源、特に民間企業からの財源を、より一層動員する。
- 持続可能な開発を、ベトナム政府及び省・市の社会経済開発年次計画、戦略、政策、マスタープランへ統合する。持続可能な開発のターゲットと指標を、通常の全国統計調査プログラムへ統合する。
- 持続可能な開発を実施に係る、財政的及び技術的支援、並びに、知識移転を促進するための国際協力を強化する。
持続可能な開発目標(SDGs)とは
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)とは、2001年に策定されたMDGs(Millennium Development Goals: ミレニアム開発目標)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標である。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。SDGsのゴール・ターゲットは、MDGsの残された課題(例:保健、教育)や新たに顕在化した課題(例:環境、格差拡大)に対応すべく、新たに策定された。SDGsは、地球を護りながら繁栄していくために、全ての国に行動を呼びかけるものである。SDGsにおいては、貧困の終焉は、気候変動や環境保護に取り組みながら経済発展を遂げ、教育、保健、社会保障、雇用機会等の幅広い社会のニーズを満たすための戦略とともに、手を取り合って達成されるべきものであると認識されている。