ベトナム中南部沿岸地方ニントゥアン省にあるバウチュック村では、現在コミュニティ・ベースド・ツーリズムを展開するプロジェクトが進行している。東南アジア最古の陶器村、バウチュック村の魅力を、JICA青年海外協力隊としてベトナムの農村開発支援NGO「VIRI」で活動中の山田邦永が紹介する。
バウチュック村で継承される伝統的な陶器
バウチュック村の陶器の特徴
12世紀頃から変わらぬ伝統的な方法で陶器を生産しているバウチュック村は、東南アジア最古の陶器村と言われている。原料の粘土はクアオ川(Quao River)周辺に分布し、村の中心部から牛車で片道40分かけて取りに行く。アスファルトで舗装された道は、やがて未舗装の道になり、そして最後には開けた農地の道無き道を行く。こうして手に入れた粘土と金の欠片を含む白い砂とを特別な配合で混ぜ合わせ、丁寧に練った土の塊は、陶芸家の腰程の高さの台に置かれる。ろくろを使うのではなく、陶芸家自身が台の周りをぐるぐると回りながら、土の塊を見事なまでの技術で瞬く間に様々な製品へと成型してゆく。この成型方法がバウチュック村の陶器の荒々しく力強い独特のテクスチャーを生み出す。乾燥させた製品は、釜ではなく地面に積み上げられた藁や木片で焼かれる。表面の色付けは、現地で採れる植物の抽出液で行われる。バウチュック村の陶器は多孔質であることから気化冷却が生じ、水や食品をより長期間保存することを可能とする。
2019年3月、ベトナムのグエン・スアン・フック首相は、この非常にユニークなバウチュック村の陶器のUNESCO無形文化遺産への登録申請を許可した。現在、登録に向けて、担当省庁が準備を進めている。
バウチュック村の陶器の始祖
バウチュック村に陶芸の技術を指導したのは、ポクロン・チャイン(Mr. Poklong Chanh)と、その奥さんのナイ・ランク(Ms. Nai Lank)である。それ以来、多種多様な陶器製品がバウチュック村の住人の生活を支えている。バウチュック村にあるポクロン・チャイン廟には、バウチュック村の陶器の始祖であるポクロン・チャインとナイ・ランクが、両者を象った陶器とともに祀られている。毎年1度、両者への感謝の気持ちを示す儀式が執り行われる。
少数民族チャム族のユニークな文化
チャム族の伝統的な音楽と舞踊
バウチュック村のあるニントゥアン省には、ベトナムに住む少数民族チャム族の約50%が住んでいる。チャム族にとって、伝統的な音楽と舞踊のパフォーマンスは、チャム族の認識を反映し、感情や美意識を表現し、宗教生活とその実践において重要な役割を果たしている。このパフォーマンスには以下の3種類の重要な楽器が使われ、これら3種類の楽器で1人の人間を表している。
- ギナン(Ghi Năng) という両面の太鼓は1対で使われ、人間の両脚を表している。
- パラヌン(Pa Ra Nưng) という片面の太鼓は、人間の体と同時に内面を表している。
- サラナイ(Xa Ra Nai) という縦笛は、人間の頭を表している。
チャム族独自のチャム語とチャム暦
チャム族はベトナム語の他にチャム語を使っている。バウチュック村の看板は主にベトナム語で表記されるものの、チャム語や英語も見られる。また、チャム族独自のチャム暦(チャム語でSakawiと呼ばれる)を使っている。西暦の9月末〜10月末にチャム暦の7月1日があり、この日は最も大規模な祭礼であるカテ祭が執り行われる。
バウチュック村周辺の観光資源
バウチュック村周辺には非常に魅力的な場所が多数存在している。チャム塔の1つであるポー・クロン・ガライ塔は、ヒンドゥー文明を受容していたチャンパ王国の存在していた13世紀の終わりから14世紀にかけた建てられた。ナムクオン砂丘はベトナムを代表する広大な砂丘の1つであり、特に日の出の時間帯は幻想的な風景に出会うことができる。ニントゥアン省は、ブドウ(栽培面積約2,400ha)とグリーンアップル(栽培面積約1,100ha)の主要な生産地であり、ブドウにいたっては、ベトナム全土のブドウ栽培面積の約90%がニントゥアン省にある。ヴィンヒー湾は漁師の村で、新鮮な海産物を海に浮かぶレストランで堪能できる。そして、地域との関わりやその土地の文化を大切にするアマノイリゾートがある。
「Heritage of Future Past」 プロジェクト
以上、紹介してきたとおり、ニントゥアン省にはバウチュック村の陶器を始めとする大変ユニークな文化と様々な表情の豊かな自然があり、コミュニティ・ベースド・ツーリズムの大きな可能性を秘めている。現在VIRIは、バウチュック村を基点に、持続可能なコミュニティ・ベースド・ツーリズムの実現をとおして現地の少数民族チャム族の生計向上を支援をするプロジェクト「Heritage of Future Past」を実施している。バウチュック村のFacebookページで最新の情報を発信している。最後に、本プロジェクトのドナーであるBritish Councilによる、非常に美しいニントゥアン省の動画で、本記事を締めくくる。