お金を貯めるには、日本では銀行を使う人が大半だと思うが、マラウイの農村で銀行を使う人はあまりいない。農村で銀行の役割を果たしているのは、「ビレッジバンキング」と呼ばれる活動だ。今回は、2週間前にマラウイの北部チカンガワという町のビレッジバンキングのグループを訪問してきた話を書きたい。
ビレッジバンキングとは?
ビレッジバンキング(VSLAs: Village Savings and Loan Associations)は、農民自身がグループの基金を作り、メンバーが預金を集めてメンバーに貸し付けを行う活動。バングラディシュのグラミン銀行がグループ連帯保証制度を成功させたことで注目を浴びたが、ビレッジバンキングは主に途上国の農村で近年活発に行われている。
20~30人ほどの農民が集まり、農民自身が自分たちで活動を運営するのが特徴。毎週決まった日時にミーティングがあり、各自好きな額の預金を行う。その集まった貯蓄をもとに、お金を借りたい人が約20%の利子を払いお金を借りられるという仕組み。
政府やNGOは、農民自身が自分たちでビレッジバンキングを運営できるようになるまで訓練や指導を行っている。
実際どのように行われているのか?
本などで目にする機会も多いビレッジバンキングだが、実際にどのように行われているのか。マラウイのあるグループの例をご紹介したい。
このグループは毎週火曜日2時に会合を行っている。この日は、私たち見学者のために5時間早く開始してもらった。メンバー16人(男7人、女9人)の村人が集まった。ビレッジバンキングは、通常女性のメンバーが多い。男性は仕事があったり、家庭の貯蓄に関心が低かったりするからだ。このグループも女性の参加者の方が多かった。
ビレッジバンキングでは、以下5つの役割を持った人がいる。
- リーダー(グループの代表者)
- マネーカウンター(お金を数える人)
- セキュレタリー(帳簿に記載する人、通常識字・計算ができる一番賢い人が選ばれる)
- ボックスキーパー(お金を入れた金庫を預かる人)
- キーキーパー(金庫のカギを預かる人、鍵は通常3か所かかるので3人いる)
誰がいくらお金を預けたか・借りたかは、日本のように機械ではなく、人の手によって数えられ、紙の帳簿によって管理される。そのため、「お金を正しく記載すること、帳簿やお金をしっかり管理すること」がグループ内で信頼を保つために必要。
個人の帳簿とグループ全体の帳簿があり、個人の預金帳簿には各個人の預金額、グループ全体の預金帳簿には全員分の預金額を書く。ダブルで管理することで、ミスを減らす。
また、お金を数える「2. マネーカウンター」と、帳簿に金額を記載する「3. セキュレタリー」は違う人が担当する。もし誰かが不正をして違う数字を書けば、グループ内の信頼はすぐになくなってしまう。ビレッジバンキングでは、信頼しあえるグループを作れるかどうかがとても重要だ。
ゆったりした雰囲気で、ミーティングは始まった。
預金
まずは預金の時間。お金を預ける人は自分の個人預金帳簿にお金を挟み、マネーカウンターへと提出。マネーカウンターとセキュレタリーが金額を確認し、帳簿に記載。見たところ、預金額は500~5,000MK(約80~900円)の金額が多かった。お金を金庫に入れて、預金の作業は完了。
ビレッジバンキングは定期預金。預けたお金は1年後全額手元に返ってくる(次年度は、また0から預金開始)。それまではお金は借りることはできても、下ろすことはできない。下ろすことができないという仕組みがあるので、1年後纏まったお金が手に入り、投資に使えるという仕組みだ。
全てのお金と記帳は、写真の金庫に入れて管理されている。この金庫を安全に管理することが、ビレッジバンキングの重要な問題の一つ。金庫は3か所鍵がかかるようになっている。金庫は「3. ボックスキーパー」が、3か所の鍵は3人の「5. キーキーパー」が保管する。合計4人が共犯にならないと、金庫は開けられない仕組み。このように、しっかりとリスクヘッジを図って、お金と帳簿を管理しているのだ。
貸付
預金が終わると、次は貸付の時間。お金の欲しい人は挙手をし、お金を借りたい旨を全体に伝える。「2. マネーカウンター」と「3. セキュレタリー」が金庫からお金を数えて、メンバーに手渡し、貸付帳簿に金額を記載する。
お金は、決められた期限内に返す決まり。一度借りたら、全額返すまではお金を再度借りることはできない。返済期限は以下のように金額によって異なる。
- 1ヶ月 :1-10,000MK(約1-1,700円)
- 1ヶ月半:10,001-20,000MK(約701-3,400円)
- 2ヶ月 :20,001-30,000MK(約3,401-5,000円)
- 3ヶ月 :30,001MK以上(約5,000円以上)
また、利子は一律借りた金額の20%(一回当たりの融資にかかる手数料として考えれば分かりやすい)。日本では悪徳業者かと思うような利子率だが、マラウイではこれが普通。マラウイの銀行の利子は約20~40%なので、むしろこれは安い方。
マラウイでお金を借りるのは、日本以上にリスク・デメリットが伴う。しかし、お金の返済率は100%!このグループで、約2年間返済できなかった人は一人もいなかったらしい。
マラウイはお互いが協力して生活しているため、一度返済できなくなると社会の中では生きていくことができなくなるからだ(お金を返済できず自殺する、というニュースをたまに目にする)。
また毎週お金を預金しているので、ほとんどのケースで、預金額で借入額を相殺することができるという理由もある。それでも、もし返済が難しいのであれば、牛やヤギ・鳥などの資産で返すことも可能としている。
ビレッジバンキングは、貸し倒れリスクを最大限減らす仕組みで運営されているのだ。
ビレッジバンキングで人生が変わった!-農民にとっての5つのメリット
訪問をして一番印象的だったのは、グループメンバーのある男性が言った「人生が変わった!」という言葉。訪問の最後にメンバーにビレッジンキングの良さについて質問してみたところ、以下5点について語ってくれた。
安心してお金を貯めて、投資に使える
ビレッジバンキングがないころは、農民はお金を安心して管理できる場所がなかった。他人だけでなく、父や子供など家族からもお金を抜き取られたりすることもあるので、お母さんはお金を常に肌身はなさず保管しなければならなかった。ビレッジバンキングに参加することで、しっかりした管理体制の元、大きなお金を貯めていくことが可能となった。
自分たちで利益を配分できる
銀行から借り入れを行うと利子は銀行の物になるが、ビレッジバンキングから借り入れを行うと利子はグループメンバー皆のもの。高すぎる利子を銀行に払う必要はない。借入によって集まった利子は、1年後メンバー全員に振り分けられる。お金を借りすぎると損、お金を借りないと得をする。農民が、自分でちゃんとお金をマネジメントしなければと思うような仕組みになっている。
不便な銀行に行く必要がない
そもそも銀行は都市の中心にしかなく、村に住む農民にとってはとてもアクセスが悪く、交通費も高い。しかも、マラウイの銀行はいつも長蛇の列。手続きを行うのに1~2時間待つのはざらではなく、とても非効率。銀行を利用するのに、沢山のお金と時間がかかる。「交通費を払うくらいなら、ビレッジバンキングでそのお金を貯めたいよ!」と考えている農民は多かった。
お金を借りやすい
ビレッジバンキングであれば、預金額の2倍の金額内であれば、理由なし・担保なしでいくらでも借りることができる。子供の病気に、身内の不幸に、突然お金が必要になったとき、お金を借りられる場所があるのは、とても有り難いもの。不安定な生活を送る人も多いが、ビレッジバンキングはそんな農民の生活を支えている。
生活改善の仲間ができる
一緒に生活を改善していく、同じ目標を持つ仲間ができるのはとても心強いもの。マラウイの農民も日本人と同じで、お菓子だったり、マットレスだったり、毎日さまざまな購買の誘惑と戦っている。ビレッジセービングでは、他のメンバーと一緒に貯めるのが良いプレッシャーとなり、「自分ももっと貯めよう!」と貯金を促進することができる。例えて言うなら日本の給与天引き預金のように、自分の意志を抑制して自動的に貯められる。貯めたお金で、必要不可欠な肥料を買ったり、新しいビジネスに投資したり。良いサイクルを回すきっかけとなる。
日本ではあまりないビレッジバンキングだが、マラウイではそれは農民の日常にある。ビレッジバンキングのメリットをしっかりと理解し、生活が良くなっていくという未来への希望を持って活動を行っている農民たちの笑顔がとても印象的だった。