アジア太平洋地域の国々がこの人口変化への対策を開始しなければ、未来に向けての成長と類を見ない投資機会を失うことになると、最新のアジア太平洋人間開発報告書は指摘します。また、対応を怠れば、若者の不満が募り、社会の不安定化、ひいては紛争にまで発展しかねないと同報告書は警鐘を鳴らします。
「未来を創る:人口構成の変化を人間開発の原動力に」をテーマにした今回の報告書は、歴史的にもアジア太平洋地域で被扶養者人口が減る一方で就労年齢が最も多いという人口構成を有しており、これが地域全体の成長の原動力になると報告しています。全体の68%を就労年齢が占め、被扶養者人口は32%にとどまっています。
アジア太平洋人間開発報告書室長兼主筆のタンガベル・パラニベルは、「働いて貯蓄ができ税金を払うことができる人の割合が高ければ、国家は経済をより良いものに変え、保健、教育その他将来の繁栄に向けた社会的ニーズに投資することが可能になります」と語ります。
本報告書は、各国に早急な対応を求めており、持続可能な開発(SDGs)に向けた9つの行動計画を提示しています。これらの行動計画は、各国の人口事情に合わせてつくりかえられる具体的な政策です。
就労年齢の人口を多く抱える国では、増え続ける労働人口に対応してディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の創出、女性の平等な就労機会、貯蓄を地域内の投資に回せる仕組みが必要であるとUNDPは呼びかけています。
若い年齢層が多い国では、教育と保健に投資して学校から職場へとスムーズに移行し、若者が社会生活に参加し易くなるように支援する必要があると述べています。
高齢者が多い国では、政府は平等で持続可能な年金制度を整備し、高齢者の積極的な活動を支援し、高齢者を尊重する社会を奨励することが必要であると指摘しています。つまり、働くことを希望する高齢者の技術や経験を労働市場に導入することも含まれます。
ハオリアン・シュウ国連事務次長補・国連開発計画(UNDP)総裁補兼アジア太平洋局長は、「生産性を上げ、成長や将来に向けての投資ができる期間は、今から2050年までの期間です。もしアジア太平洋地域諸国が最善の雇用状況を創出できなければ、現在の現役世代が引退する2050年までにこの地域の経済は縮小してしまうでしょう」と語っています。
世界人口の58%を抱えるアジア太平洋地域の影響は、世界にも波及することになります。
シュウ局長は「西側の成長と雇用、そして移住問題は、東側で起きていることと密接に関係しているのです。太陽は東から上ります。しかしその影響は地球の反対側でも感じられるはずです」と語ります。
すべての国に有効な特効薬がある訳ではありません。しかし、アジア太平洋地域の多様性は、南南協力の可能性をもたらします。アジア太平洋の政府は、税収入の持続可能な活用方法など、長期的な財政計画の教訓を共有する必要があります。国家間の協力によって、若い人口の多い国から高齢者の多い国へ安全に移住できるようにすれば、ヨーロッパへの命を賭した危険な移住が減る可能性もあります。
シュウ局長は「アジア太平洋地域の24か国に事務所を持ち、50年の活動実績があるUNDPは、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた9つの行動を実践に移すための支援を提供する理想的な組織だと思います。国内外や民間からの資金と、若者や高齢者、移住、社会保障、気候変動、災害対策、統治機構、都市化や技術移転などに関する専門知識を繋ぐパートナーシップを促進することができるからです」と語ります。
国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ウェブサイトより転載