予算規模はJICAの方がUNDPより大きい
国連の開発援助の中枢を担っているのが国連開発計画(UNDP)。日本の開発援助を担っているのが国際協力機構(JICA)。ここまでは多くの方がご存知のことだろう。しかし、組織体系や活動がどう異なるのか考えてみたことはあるだろうか。今回は予算と職員数の観点から、多国間援助(マルチ)と二国間援助(バイ)を担う両組織の特性に迫ってみたい。
まずは予算規模。「国連のほうが日本より多額の援助をしている」と漠然と思ってはいないだろうか。実は、年間予算を見ると、JICAが1兆円に対し、UNDPは4,500億円。JICAのほうが2倍以上の予算を運用していることになる。この違いは主に、JICAが資金協力と技術協力を行っているのに対し、UNDPは技術協力のみを実施していることによるものだ。
JICAの事業予算の内訳を見れば一目瞭然で、円借款:技術協力:無償資金協力=7,500億円:1,800億円:1,200億円と、円借款の事業規模が大きく、その大半はインフラ事業へ融資される。円借款は開発途上国への貸付であり、返済が前提となっている。そのため、無償で提供される資金協力や技術協力と比べて、大きな事業規模で支援を行うことができる。これにより、予算規模だけで見れば、JICAの方がUNDPを圧倒しているわけだ。
気を付けたいのは、予算の多少は事業の優劣に直結しないことだ。UNDPが技術協力に注力し、JICAが資金協力を軸に技術協力も併用しているといった特性について、むしろ注目いただきたいところだ。
職員の数はUNDPの方がJICAより多い
職員の数はどうだろうか。JICA:UNDP=1,800人:7,500人と、UNDPの方が多くの職員を抱えている。一方、契約ベースの専門家の数を見ると、9,000人:2,600人と、JICAの方が圧倒的に多い。JICAが少数の職員で事業展開の実施や方向性の決定を行い、各分野のスペシャリストは契約ベースで調達している点に特徴があり、UNDPはスペシャリストまで内部人材として確保している点に特徴がある。
職員一人当たりの予算規模は単純計算で、5.6億円: 0.6億円。私の経験からしても、JICAは新人職員が数十億~数百億円規模の事業管理を担当することも多い。国際機関や開発途上国の政府関係者と面会する際も、相手が自分よりも数十歳上の人であることがほとんどで、新人が大臣室でケニアの保健政策について大臣と直接議論する場面もしばしばある。若手職員の裁量や権限の大きさは、JICAが圧倒的に大きく、多額の予算を扱うことが多い。
予算規模と職員の数の違いから考える得意分野の違い
予算規模の違いは事業の違いにも表れる。インフラ事業の場合、案件あたりの予算額は大きくなる。一方、予算規模の小さい技術協力でも、調整や手続きにかかる業務量は同程度であることが多い。一概には言えないが感覚的には、案件あたりの事業規模を大きくすれば、予算総額は大きくなる一方、案件計画から実施までの「手間」はさほど変わらない。
JICAが少人数で大きな予算規模を運用できているのはインフラ事業を主軸としているためであり、技術協力を増やそうとすればもっと多くの職員が必要となるだろう。
このように、予算規模と職員数からマルチとバイの比較をしてみると、それぞれの強味が見えてくるかもしれない。
※この記事は1月15日に開催された開発フォーラムの二瓶直樹氏による発表を参考に、執筆者の見解を加えて再構成しています。内容の責任は執筆者にあります。