パキスタン

テロとNGO

Photograph: DVIDSHUB

世界中でテロが発生している。筆者が駐在しているパキスタンでも近年、件数が減少しているものの、2月には複数の事件が各地で連続して発生し、計100人以上の民間人が犠牲となった[1]

なぜ人々がテロ事件を起こすのであろうか。パキスタンでの専門機関による研究では、紛争による混乱によって貧困に置かれ、家族を養うために幼少期より労働を課され十分な教育を受けられなかった者が、武装勢力によって洗脳され、自爆テロを起こす傾向にあるという結果が発表されている。こうした者の出身コミュニティでは、自爆テロ実行によって親族の社会的地位が上がるという噂がまことしやかに浸透している[2]。脆弱な立場に置かれた人々が利用対象となっている構図が浮かび上がる。

特にテロに対しては、根本的な土壌の解決が必要だ。国際社会の責任として取り組むべきことは、脆弱な状況にある人々への息の長い支援だ。国連などの国際機関を通じて、世界中でSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けたさまざまな取り組みが始まっている。同様に、国際NGOを中心に草の根の支援を行うアクターとして、専門分野、活動国においてNGOが尽力している。たとえば筆者達はパキスタンで2009年からテロ掃討作戦のために住む土地を追われた人々に対する支援活動を行っている。また、アフガニスタンでは復興支援として教育環境の整備を行っており、その対象は最も脆弱な人々だ。

Photograph: Roberto Saltori

パキスタンでは2008年代以降アフガニスタンと国境を接する北西部で、政府軍による武装勢力の掃討作戦を逃れるために数多くの一般市民が避難を繰り返した。現在、23万人以上が故郷に戻ったが、いまだ7万人近くの人々が帰れずにいる[3]。私達は緊急支援として、帰還した人々に彼らの生活の再スタートをサポートしている。彼らの本来の生業であった畜産を通じて生計を立て直す支援だ。牛や補助飼料などを配布し、家畜の感染症予防措置や家畜を健康に育ててパキスタンの人々の主要な食料である牛乳やヨーグルト、牛肉を彼ら自身が消費し、販売して収入を向上させるための研修など、畜産に関わる持続発展的な仕組みづくりを行う。今後、家畜を改良するための人工授精や、乳製品などをより効果的に販売するための研修などを実施する予定である。安定した生活を取り戻すことで人々の未来への希望につないでいきたい。

紛争に苛まれた人々は家族や友人、土地・資産・仕事・教育・コミュニティのつながりなどを失って、知らず知らずのうちに心に深い傷を負った状態に置かれる。こうした人々に寄り添い、こうした人々の力になることは人道的観点から必要だ。これこそ、SDGsが掲げるLeave No One Behind(取り残される人がいない社会)への取り組みだ。

以上は日本から見れば無関係の遠い世界の話に聞こえるが、テロ組織が地球規模でネットワーク化して強大になり、日本も標的になるかもしれないし、卑近な例では海外旅行先で犠牲となる可能性もある。何よりも世界の治安が不安定な状況であり続けるのは誰も望んでいないはずだ。ささやかで長期間を要する取り組みではあるが、テロ犠牲者と実行犯の双方が無駄に命を落とす悲劇の根絶と、彼らが心の底から安心できる未来を築いていけるよう、私達NGOはこれからも支援活動を行うことで国の復興に貢献していく。


[1] South Asia Terrorism Portal. Fatalities in Terrorist Violence in Pakistan 2003-2017.
[2] Iqbal. 2015. The Making of Pakistani Human Bombs.
[3] UNOCHA. 2017. Pakistan: FATA Return Weekly (03 to 09 February 2017) – Humanitarian Snapshot.

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