東南アジアレポート 12-ビエンチャンのバス事情
2007年11月15日 Vientiane (Laos)
値切りに値切って買った真っ白な靴は、その白さ以上に眩しく見えた。軽やかなステップで、朝の賑やかな市場を颯爽(さっそう)と抜け、道路を小走りに横切った。バスターミナルは道路を挟んで市場の向かいにある。朝10時を回るこの時間帯になると、たくさんの人々がバスで市場にやってくる。ここは街の中心部に位置し、ビエンチャン市周辺に住む人々にとって重要な役割を果たしている。
バスターミナルにやってきたのは郊外にあるブッダパークとやらへ行くためだった。昨夜、寝る前にガイドブックを眺めていて、偶然発見したのだ。僕の携帯していた「Lonely Planet」 というガイドブックの良いところは写真がほとんど載っていないところだ。「地球の歩き方」の方が日本ではずっと有名なのだけれど、実はあまり好きではない。というのも、写真があまりに多すぎて、それらはほぼ全てがカラー刷りといった手の懲りよう。僕からすれば、ガイドブックにしては少しやり過ぎている。 旅行する前にどんなものがそこにあるのか、たいていは写真から想像できてしまうのだ。つまり、「地球の歩き方」は僕にとってネタバレ本であって、旅先での新鮮な驚きや感動をことごとく奪ってしまうわけである。
少し脱線した。そういうわけで、一度も目にしたことのないブッダパークに思いを馳せ、この日は朝から気持ちが高ぶっていたのだった。その名の通り目を疑うほどの大きさの仏像がたくさんあるのだろうと期待を膨らませ、その思いはちきれんばかりに大きくなっていた。
バスターミナルに着くと信じられないほどの人だかり。タイから国境を越えて到着する客を狙った商人たちでごった返す一方、市場で買い物を済ませた人々が次から次へと小さなバスに乗り込んでいた。その傍らで僕はラオス語だらけの路線図に半ば途方にくれかけ、地元の人に「ブッダパーク、ブッダ!ブッダ!」と連呼し、何とかブッダパーク行きのバス停を教えてもらった。
ところが、事はまだうまく運ばない。バス停には列にならない程たくさんの人がバスを待っていた。「どんな大きなバスが来るのか」と不安いっぱいで待つこと15分。やってきたのは案の定気持ち大きめのワゴン。そんな小さなオンボロバスに、「20人も30人も乗れるはずがない」と正直思った。しかし、地元民は平気な顔で乗り込んでいく。バスのタイヤが潰れかけても詰め込めるだけ詰め込んで、運転手はバスを発進させた。唖然とした僕の前からバスは無常に離れていく。ブッダパークへ行くのはやめにした。
ゲストハウスに向かう足取りは重い。数分前まで新しい靴を買った嬉しさにウキウキしていたのがウソのように、途方にくれていた。まさか、あれ程人が乗っているとは。全く予想していなかった。別に乗り込んでもよかったのだろうけど、地元民ばかりの中にたった一人の日本人はあまりにリスクが大きいような気がしたのだった。おそらくそういうこともあって、観光客はトゥクトゥクでブッダパークへ行くのだと、今になってみれば思う。
気分転換に、ゲストハウス近くの行きつけのレストランに入り、少し遅い朝食をとることにした。店内には涼しい風が吹き込み、実に心地よい。炒飯を頼み、ジュースを飲みながら激動の早朝を振り返って見たりした。そんなとき、右斜め後ろに座るアジア人女性が気になった。見た目は日本人。ラオスに来て、あまり日本人を見ることがなかったし、日本人女性の一人旅はこの国では本当に珍しいのではないだろうか。さらに見た目以上に行動が日本人っぽかった。彼女は「ライムをください」と少し無愛想に注文し、「ライムジュース」を持ってきた店員に「私はライムフルーツと言ったの」ともう一度持ってこさせた。こんなに細かな注文をするのはたいてい日本人っぽいと僕は感じるのだが、彼女の英語は中国語訛りなのだ。食事の後、彼女は現地男性と街へ消えて行った。何だか不思議な女性だった。