東南アジアレポート 11-ラオスで盗難
2007年11月15日 Vientiane (Laos)
相変 わらず清々しい朝を迎え、ゲストハウスの玄関へ向かった。そこで目が飛び出た。口から心臓が飛び出る前に我が目を疑った。昨日確かにそこに置いておいたはずの靴がない。ニュージーランドで2,000円で買った自慢のボロ靴がない。この旅で買い替えようと思っていた矢先の出来事である。初めての事件にほんの一瞬だけおどおどしたものの、実は意外に冷静だった。「あのボロ靴を盗んだ犯人はよっぽど物に困っていたか、あるいはかなり熱烈な僕のファンに違いない」と一人物思いに耽った。
そんな小さな事件から始まったこの日はまさに「良い経験」の連続だった。とりわけ「これをしよう」という予定がなかったこの日に、よくぞ起こってくれたハプニングだった訳だが、いずれにしても靴は必要である。このとき初めて靴の大切さを知った。そういうわけで、ゲストハウスに備え付けの簡易スリッパを履き、昨日シャツを買った朝市へ向かうことにした。初めはいつも通り朝の街並みを見ながらのんびりと歩いていこうと思っていた。しかし、道中でやけに周りの目が気になる。変なアジア人がホテルのスリッパで堂々と歩いているのだから無理もない。途中から恥ずかしさが込み上げてき、ついにトゥクトゥクに乗ること にした。稼ぎ時の朝の時間帯にも、相変わらずのんびりとたむろしているドライバーの一人を捕まえ、5,000kip(=50円)で無事朝市へ送り届けてもらった。
朝市の中は昨日散々歩いたのでだいたいどこに何があるのかは把握していた。到着後すぐに靴屋へ向かい、白の形の良い靴を見つけた。側面にはadidasのロゴがあり、見た感じもしっかりした靴という印象を受けた。「本物か偽物か」を尋ねられると、「本物だ」と言いはる自信はないが、靴自体の質が明らかに良さそうだったのでそれを買うことにした。ただ、ここからが問題だった。どう考えても、スリッパを履いている外国人が大きく値切ることは難しいと思っていた。 ホテルのスリッパを履いている旅行客を見れば、誰でも「今すぐに靴が欲しいんだな」と思うに違いない。そのため、「きっと吹っかけられるだろう」と踏んでいた。
試しに値段を聞いてみることにした。店を開けたばかりの女性店員は忙しそうにしながらも、客に親切に対応してくれた。そして彼女は「それは850バーツだよ。ドルで払いたいなら26ドルだよ。」と言った。これは面白いやり取りだ。ここはラオスなのにラオス通貨kipを要求せず、タイバーツとアメリカドルで支払いを指定した。しかも、この850バーツというのは28ドル程度である。ドルで払ったほうが安いこともしばしばあるのである。ラオスではタイバーツとドルをkipに加えて持ち歩くようにしていたのはこういうときのためだった。
彼女の28ドルという言葉に僕は「20ドルでどうか」と即座に聞き返した。この頃になると値切り方が以前よりうまくなっていた。20ドルと言ったのは「4ドルはまけてもらえる」と踏んでいたためで、「だめだ」と言われた時に「じゃあ24ドルでいいよ」と言おうと心に決めていた。案の定帰ってきた言葉は 「No」で、彼女は笑顔で「25ドルならいいよ」と付け加えた。まだ高い。「あと1ドル」と思ったが、変な自信が芽生えて、20ドルで通した。彼女は 「22ドル」と言った後に、引かない僕を見て20ドルで売ってくれた。靴ひもを通して、さらに履かせてくれた。ここまで良くしてもらうと、値切ったことを 少し後悔するものだ。あまりに値切り交渉しすぎるのも良くないが、一日の予算15ドルで旅をしている貧乏人には仕方なかった。数年後に再び訪れたときには もう少し高く買ってあげたいものだ。
盗難の被害にあったことは嬉しい事ではないが、考え方を変えれば、たった20ドルで盗難される事を経験できたということ。これはとても良い経験になった。 このときはビエンチャンの治安の良さに少し気が緩んでいて、靴を外に置きっぱなしにしていた自分が悪かった。次回からは気をつけないといけない。
これがまだ1日の始まりの出来事なのだから、この日は長い一日になりそうだった。