4月3日、ロシア第二の都市サンクトペテルブルグで地下鉄爆破テロが起きました。死者は計14名となる惨事で、3日はちょうどプーチン・ロシア大統領がルカシェンコ・ベラルーシ大統領との会談のためサンクトペテルブルグ訪問中でした。
テロの実行犯は、中央アジアのキルギス出身で22歳のアクバルジョン・ジャリロフで、南部のオシュ出身のウズベク系住民であることがキルギス政府当局から発表されました。近年キルギスをはじめとする中央アジアでは、普通の一般市民が過激主義に傾倒し、最悪テロ行為に及ぶことが起こっており、今回もある程度想定の範疇で起こった事件ともいえます。今年元日、トルコ・イスタンブールのナイトクラブで起きた銃乱射事件では、39名が死亡する惨事となり、ISによる犯行声明が出され、また実行犯は中央アジア出身者でした。
中央アジア諸国からはトルコやロシアへ海外出稼ぎ労働者を相当輩出しており、経済の発展度合いが低い、キルギスやタジキスタンでは、国家GDPに占める移民労働者による海外送金が3-4割を占めるほどです。ロシアでは、モスクワやサンクトペテルブルグのみならず多くの地方都市で中央アジア出身者が労働者とし建設業界やサービス産業に従事しているといわれています。かつて駐在したタシケントや現在駐在するビシュケクの空港でモスクワ、イスタンブール、ソウル行きなどの国際線に搭乗する際、移民労働者と思しき集団や人々をこれまで多く目にしてきました。
私が現在駐在するキルギスでは、約300名のキルギス市民が外国でISの戦闘員として活動しているといわれています。また、他の情報では、南部のオシュから400名以上が外国で同様の活動に従事しているともいわれており、キルギス国内でも過激主義やテロが大きな社会問題、関心事項となっています。実際にシリアでISに従事した後にキルギスに帰国した家族の話なども少なくありません。
今回のテロからもわかるように、近年、ロシアやカザフスタンなどの出稼ぎ先の国々における経済停滞の影響(石油価格の停滞など)、現地での人種差別や社会的排除などの理由により、当初想定していた出稼ぎ労働などの経済活動に思うように従事できなくなった際に、現地で何らかの影響を受けて、過激主義的な思想に傾倒していくと考えられています。過激主義に傾倒して行った人々の背景は実に様々で必ずしも貧困や経済的問題とは限りません。今回のテロ実行犯も一定の教育を受けており、一概に結論は出せないものでもあります。
今回の事件を契機に、ロシアは中央アジア出身者による労働目的等の入国を制限するなど、規制を強化する可能性があります。また、現地における中央アジア出身者に対する社会的偏見が強くなり、過激主義と関係のない人々にもネガティブな影響がでることが懸念されます。更に、過激主義的思考に傾倒した人々が出身国に戻ることで、またそれぞれの国におけるテロ等の脅威も増大するかもしません。中央アジアはアフガニスタンとも国境を接しており、イスラム過激派勢力が一時期に比べればコントロールされているといわれていますが、ゼロというわけではありませんので、さらに組織を通じて過激思想を強化させるリスクもはらんでいます。
独立後25年を経過した今、中央アジア諸国はそれぞれ、独自のペースで市場経済化や民主化への道のりを歩んでいますが、国民が十分な社会・経済活動の機会が得られないこと、政府や統治機能に対する不信感、民族差別や社会的排除等さまざまな要因で海外に機会を求める人々が少なくありません。
今回の事件は、中央アジア地域における社会・経済状況の問題、開発を如何に進めていくべきか、そして過激派対策をどのように行うか、幅広い視点での取り組みを考えさせられる契機になると考えています。