「貧困援助がビッグ・ビジネスに?あなたの”善意”が、誰かを傷つけているかもしれない」
渋谷アップリンクをはじめとしたいくつかの映画館で、映画「ポバティー・インク ー あなたの寄付の不都合な真実」が公開された。これは貧困問題に対する寄付や善意の中にはビジネス化しているものがあるという事実を取り上げた、約90分のドキュメンタリー映画だ。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学をはじめとする名だたる大学でも上映されたこともあり注目を集めていたのだが、2016年8月6日、ついに日本にもその波がやってきた。
そして、筆者もこの映画を観るために劇場へ足を運んだが、「なんでも送ればいいってもんじゃないよね」とか「そういうビジネスって倫理的にどう思うよ」とか、観終わった後に誰かと少し議論をしたくなる作品だった。Africa Questの横山裕司さんの上映後トークショーにも参加することができたのだが、実際、トークショー後の彼は囲み取材のごとく質問攻めになっていたのが印象的だった。
善意が貧困を助長する?
営利目的の途上国開発業者や巨大なNGOなどにより、数十億ドルにも及ぶ「貧困産業」が生まれ、そのなかで先進国は途上国開発の指導者として地位を獲得してきた。(中略)「気の毒な人々を何とかしなければ」「彼らは無力で何もできない」といったイメージを先進国側の人々に植え付けるプロモーションや、一方的な押し付けで受け手側の自活力を損なうような援助のやり方に、反対の声をあげる途上国側のリーダーは増えている。
年間所得3000ドル未満で過ごすBase of the Pyramid(BoP層)の人を対象にしたビジネス「BoPビジネス」という言葉が生み出され、ビジネスと貧困削減の両立を図らんとする潮流はずいぶん前から続いている。この映画で語られる「貧困産業」は、貧困削減に取り組んでいるという姿勢を利用し(映画内の言葉を借りれば、「貧困を食い物にし」)、受け手への影響を安易に考え、無邪気に展開される事業にハイライトして語られていた。
例えば、映画でも取り上げられたアメリカ発の靴メーカー「トムスシューズ」は、靴を一足購入するごとに途上国に一足送る『One for One』スタイルをとっている。そして広告に使われるのは、たくさんの靴に群がる南米の子供たちや、靴を履いて笑顔になったアフリカの家族。各国のセレブリティも賛同の姿勢を見せ、25万人が参加するイベントが年に一度開かれている。
一見、幸せがもたらされたように見える。さて、これは正しい支援のカタチだと、言えるだろうか?
ここで、靴の受け手国への影響を考察する。かっこいいデザインの靴が無料で大量に配られる。現地にもともと存在していた靴市場があったとすれば、どうなるのだろうか?大量・無料の援助と競い合って、どう生計を立てていけようか?もしもそれで現地の市場が衰退してしまうのなら、受け手国は靴を生産できないまま延々と寄付を受け続けるのだろうか?
世間には支援しているように映りながらも、実際は裨益国の経済をかき回してしまうような『国際援助』の例を挙げるとキリがない。そういったビジネス構造に警鐘を鳴らそうと試みた本作は、筆者のように国際協力分野を志す学生にも、その40億人を優良なビジネスの相手として見ている人にも、一つの忘れがちな、しかし大切な倫理的視点に立ち返らせてくれるはずだ。
…というのが、この映画のメッセージと同じ立場からの意見だ。
少し批判的に観ても面白い
「いや、自分はそう思わない。お金になるところにビジネスが生まれるのは当たり前だろう」なんて、映画の内容に異を唱えながら観ることができるのも、この手の作品の醍醐味だ。
実は筆者の私も、これを観た帰り道に思索を巡らせていると、このトムスシューズが行っていることにグローバル企業の世界展開と似た何かを感じて、同時にトムスシューズに対してある種の正当性を感じていた。
つまり、「大規模な事業が他国の市場に入ってくるというのは、何も貧困地域に限ったことではなく、むしろ自然なグローバル経済の成り行きなのではないか」、などと考えていた。Amazonの台頭で、日本の家電量販店や本屋は苦しめられた。iPhoneの台頭で、日本の電子機器メーカーが苦しめられた。ならば、受け手国の靴屋さんが淘汰されてしまうのは、言ってしまえば「普通な流れ」なのではないか?
本当にそうかもしれないのに、この映画のように貧困地域を対象とした参入だけが、あたかも悪者かのようにハイライトされている。これはどうして起こるのか?この両者には、どんな差があって、どんな正義のぶつかり合いがあるのだろうか?もしあなたが友人と本作を観に行って、劇場近くのカフェで小一時間のお茶をしたら、そんな議論も生まれてきそうである。
本作の渋谷アップリンクでの公開は間もなく終わってしまうようだが、ほかの府県でも公開が決定しているようだ。是非、興味があればお近くの劇場へ足を運んでいただきたい。
ところで、日本版ポバティー・インクのTwitter公式アカウントは、本作に関するTweetを探してRetweetしてくれている。観終わってから「こういう見方もあるのか」とさらに議論を深めたいのなら、要チェックだ。
あとがき
ちなみに、筆者は上記の批判的な問いに対して、「援助の姿勢を見せていること」に決定的な差異があることが理由だと結論付けた。Amazonは「誰かの生活を助けるためだよ」などと言いながら日本に参入してきただろうか?ビジネスをするのなら真向にビジネスをするのが当然だし、そんな援助の姿勢を売り物にする商売には感涙できないほどに、もはや消費者の目は肥えてきている。顧客の同情を誘うために貧困を食い物にするビジネスは利己的に見られる時代が到来し、いずれ淘汰されるのかもしれない。