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開発途上国の社会政策と貧困削減は今

photo credit: Asian Development Bank
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社会政策は開発途上国における貧困削減と脆弱性の改善に関して主要な政策の一つとなった。社会政策は今や、先進国で発展してきた年金や医療保険といった伝統的な社会保障(Social Security)にとどまらず、開発途上国で発展してきた条件付現金給付(CCTs)や各種補助金(食糧援助、教育・医療サービス無償化)の支給等も含む、貧困層の脆弱性の改善に資する全ての政策を包括的に網羅する分野(Social Protection)として位置づけられている。

実際、開発途上国では国家社会保護戦略(National Social Protection Strategy/Policy)を策定し、省庁横断的な委員会を組織し、貧困削減に資する社会保護制度設計に取り組み始めている(例:カンボジア、ケニア)。

開発パートナーもこれに呼応し、国際枠組みや援助戦略を整えつつある。

例えば、ILOとWHOが中心となって「社会保護の床(Social Protection Floor)」イニシアチブを打ち出し、社会保障制度設計へ向けた支援を開発パートナーに促した。また、世界銀行も社会保護・労働グローバルプラクティスの中期計画の主軸にCCTを加えるなど、体制を整えつつある。

貧困削減に関しては、多くの低所得国が中所得国の仲間入りを果たしつつあり、世界の貧困層の大部分が中所得国に集中すると見込まれている。それ故、低所得国では絶対的貧困の撲滅、絶対的貧困の減少が一層進むと見られる中所得国では貧困を卒業した人々が一時的なショック(災害・病気等)によって貧困状態に再び陥らないための制度整備(社会保障等)が喫緊の課題となりつつある。

また、貧困率の減少にもかかわらず、その他の指標の改善がみられないケースが存在することから、貧困の計測方法の多様化もしばしば議論されている。

例えば、オックスフォード大学が発表した多元的貧困指標(Multidimensional Poverty Index:MPI)は、従来の所得・消費に基づいた貧困指標に加え、教育・保健指標も考慮した新しい貧困概念を提示しており、ポスト2015アジェンダのワーキンググループでも議題となっている

また、従来の貧困指標が摂取カロリーをベースに計算されていることから、栄養指標と相関しないことが明らかにされており、貧困問題の議論に栄養の観点を加える必要性も昨今の議論である。

このように、開発援助の文脈において社会保障は貧困削減(或は貧困の予防)の主要なツールの一つと認知されつつあり、貧困の計測方法の多様化や計測技術の発展も認められる。

ポスト2015時代の到来を控え、日本の開発援助もこうした新しい状況に対応していくことが必要となるだろう。

 

参考文献

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