貧困はあらゆる要素の結果であって、貧困はそれ単独では存在し得ない。つまり、何か原因があって初めて、貧困が生まれる。そのたくさんの要素の中の一つに、 児童労働がある。ここでは、貧困と児童労働の関連を見ていくこととする。まず、下のダイアグラムを見て欲しい。これは私が『カンボジア国家社会保護ストラテジー』の枠組み提案のために作成したもので、「貧困、教育、児童労働が作る負の連鎖」を説明するためによいかと思い、ここに引用する。更なる詳細は本記事下部の「参考文献」を参照いただきたい。
上の図は、貧困家庭が貧困に陥る家庭を示したもので、長い時間軸の中で彼らの生活を観察するとこうしたサイクルがあるのではないか、ということを描写したも のである。3つあるボックスのどこからスタートしても良いが、今回は一例として、一番下の「児童労働(Child Labour)」から始めるとしよう。
1. 児童労働(Child Labour)
例えば、10歳になる男の子が35度の炎天下、毎日15時間、週7日間、ひたすらレンガを砕く作業に従事していたとしよう。毎日重たいレンガを運ぶこと で、身体の成長が阻害されるかもしれない。命じられた通り、同じ作業の繰り返しをするだけの生活により、心の発達も阻害されるかもしれない。しかし、父親 が死んでしまった今、幼い弟や病気がちな母の代わりに家計を助けるのは彼しかいない。彼はそうして大人になっていく。
2. 教育(Education)
彼は働き始めると同時に、学校を辞めた。1日15時間働くとなると、当然彼は学校へ行くことができない。読み書き、計算はおろか、普通教育を受けている人 たちの教養・常識を知らない。彼ができることといえば、レンガを砕いて米一キロ相当の報酬を得ることだけ。また、仮に機会があっても、今更小学校へ戻っ て、低学年から再スタートするにはあまり気持ちが乗らない。
3. 貧困(Poverty)
15年後彼は大人になって、家庭を設けた。しかし、いまだにレンガを砕き、低賃金で生活している。また、数年前にレンガの下敷きになる事故に遭い、歩行障 害を患っている。その影響で今は週に3日しか働くことができない。もうすぐ5歳になる息子もそろそろ働きに出す頃だ。教育を受けさせて、良い仕事につかせ たいが、自分の収入だけでは家族を十分に養うことができない。苦肉の策だ。
上の例はカンボジアでしばしば耳にする話をまとめたものである。ILOによると、児童労働の一番の原因は、貧困である。そして児童労働は教育の機会を阻害す るだけでなく、児童の心身の発育に障害をもたらし得る。そうしたサイクルを長い目で見たときに、世代を超えて連鎖していくのである。また、労働中の小さな 事故やそうしたリスクの中で生きる人々は、同時に慢性的貧困のリスクと隣りあわせで生きている。こうしたことは何も今に始まったことではなく、長い間言わ れ続けてきたことだ。
しかし、常に同じ課題がそこに横たわっているのも事実である。どうやってこの貧困の連鎖をとめることができるのか。
参考文献
ILO IPEC (2010) The Role of a National Social Protection Strategy in Augmenting Human Capital through Promoting Education, Reducing Child Labour and Eliminating its Worst Forms