緊急救援から開発支援に切り替わったネパールにて
本日2017年4月25日で、ネパールのゴルカ地震発生から2年が経つ。アジアで起こった未曾有の大震災は現在、どのような復興状態なのか。震災後の緊急救援で現地活動を継続したのち、現在は開発支援を行っている、シャンティ国際ボランティア会の竹内海人氏に話を聞いた。
2015年12月に設置されたネパールの復興庁の義援金により、住宅の建設は進みはじめたものの、市民の多くは未だに緊急で配布されたトタンで小屋を建てて生活をしている。また、ネパールの教育省が緊急期に開催した教育クラスター会議のTechnical working groupによれば、仮設教室の耐久年数は2年しかないと試算されている。「子どもたちは現在も危険な環境で授業を受けている」と、竹内氏は指摘する。
表面的な地震対策
2015年4月25日に発生したゴルカ地震はマグニチュード7.8、震度5弱~6弱。余震も何度もあり、国際総合山岳開発センターによると、ネパールの人口の約 30%に当たる約 800 万人が被災し、死者およそ 8,800 人、負傷者 22,000 人以上、全半壊建物が 79 万戸以上となった。特に地方に行けば行くほど支援は届かず、被害は大きくなっていた。
ネパールは東西に延びるヒマラヤ山脈で有名だが、過去にも大地震が発生している。1934年1月に発生したビハール大地震は1万人以上の犠牲者を出したといわれている。今回の地震はそれと同様の規模であり、約80年ぶりといわれている。
地震の被害があった地方では、多くの家屋は石を積み上げたり、泥で固めた構造であることから、災害への脆弱性が指摘されていた。また都市部においても、近年建設された家屋や複合施設は、建設申請後の増改築により、ネパール政府が設定した建設基準法に適応していないことが問題視されていた。この基準では使う材質、建物の高さに合わせた強度設定等が厳密に定められており、地震を含めた自然災害に耐えるように策定されていた。それにもかかわらず、今回の地震により世界遺産も含め、多くの家や建物が地震により崩壊した。
枠組みとしての防災対策はあったものの、実際には機能していなかった。この原因として竹内氏は「防災に対する普及に問題があった」と言う。
国際的な学校防災
震災の当日は幸運にも学校は休日であったため、2005年に発生したパキスタン大地震のような万単位の被害者数を出すことはなかった。しかしながら、教育セクターにおける被害状況に関しては、全壊あるいは大きな被害を受けた教室数が 31,000 教室以上、それ以外の被害を受けた教室が 16,700 教室以上、その他トイレ、給水設備、学校家具などの損壊が確認された。災害前からネパール教育省は学校における災害リスク軽減に向けた研修を多数行っていたが、それは学校設備といったハード面に集中していた。
そこでネパール政府は、2016年に、新しい教育中期計画を策定した。その大きな柱の一つが防災の普及だ。
新しい中期計画が示す学校における防災の主流化は、近年国際社会で取り組まれていることの一つだ。2015年3月に仙台で行なわれた国連防災世界会議でも、教育における防災が議論されたのも記憶に新しい。特記すべきとして、国連機関やIFRCに加え、国際NGOによって作られた国際的な包括的学校防災の枠組みがある。この枠組みの目的は、教育セクターにおいても防災の主流化を進め、教育を受ける子どもたちを災害から守ることである。本枠組みは、学校が災害前のリスク軽減と災害による被害の緩和を目指しており、主に以下3つの項目によって構成されている。
① 安全な学習環境の整備
② 学校での災害対応
③ 災害リスク軽減と防災教育
この枠組みでの特徴的な点は、①にあるようなハード面と、②にあるソフト面、そして③地域を巻き込んだ形での防災教育を、それぞれが融合した形で行うという点にある。つまり、学校における防災とは、建築物として安全な学習環境を整備するのはもちろんのこと、その学校で教える教員の災害に対する能力強化、そしてコミュニティの防災への理解を促進して初めて、子どもたちを安全にすることができるということだ。ネパール政府は中期計画でこの包括的学校安全枠組みを採用した。しかし、これらを実際にネパールでどのように普及させていくかはまだ議論の最中だ。
防災を普及させるために
現在のネパール震災復興は、段階としてインフラの再建が最優先だ。特にネパールの教育においては、早急な学習環境の整備は教育へのアクセス確保だけでなく、教える教員のモチベーションと教育の質低下にもつながりかねない。現在は国際社会の支援もあり、安全な学校が再建されていく一方で、今後は、震災を経験した子どもたちをどのように安心して勉強できるようになるか施策を考えなくてはいけない。教員そして地域の人たちが安心して子どもたちを学校に送れるようになることこそ、大きな被害を生んだ今回の震災の経験を復興に生かしていくことではないか。英国ダラム大学の地質研究チームは、震災後の調査により、ヒマラヤ山脈下に東西に延びる活断層の存在を確認している。これに対し、ネパール教育省や国際機関、NGOで構成される教育調整会議の災害対応部門では、危機対応計画の策定を行っている。災害への備えは、今こそ必要とされている。その第一歩として、シャンティ国際ボランティア会は、アジアで35年の教育支援(学校建設やコミュニティマネジメント)の実績を活かし、防災対策を備えた小学校を建設予定だ。過去にはカンボジアで実施した教育支援の仕組みが政府の公式ガイドラインとして採用されるなど、活動が全国に波及された実績を積んでいる。ネパールでは、国際的な枠組み踏まえながらも、学校の教員や地域の人びとが持続的に遂行可能なモデルを構築することを目標に、本格的な活動を継続していく。
この記事は榎本未希(Readyforインターン)が実施したインタビューをもとに書かれたものです。
参考資料
EERI. 2015. Nepal National Building Code
Bureau of Indian Standards. National Building Code in India.
UNESCO. 2013. Comprehensive School Safety.
ネパールの子どもの命を守る防災対策を備えた小学校建設
シャンティ国際ボランティア会は、クラウドファンディングに挑戦しています。6月26日(月)午後11:00までに、6,000,000円以上集まった場合に成立となります。地震で9割の学校が倒壊したネパールの村で、自分で自分の命を守る大切さを伝えたい。シャンティ国際ボランティア会は、防災の仕組みも学ぶことができる丈夫な小学校を造ります。プロジェクトやクラウドファンディングの詳細はこちらからご覧ください。