2014 年から2015年、女性省(Ministry of Women’s Affairs)及び国家統計局(National Institute of Statistics)は世界保健機構(WHO)、UN Women及び国内外の機関の支援を受けて、カンボジア初となる「女性の健康と暴力の経験に係る 全国調査(National Survey on Women’s Health and Life Experiences in Cambodia)」を実施し、その調査報告書を発表した。
これまで人口保健調査等を通じて女性の母子保健や栄養、家族計画等の側面から 女性の健康について統計データを得ることは可能であった。同報告書は「女性への暴力」に焦点をおいた初の全国規模の調査という点において非常に価値のある報告書ということができるだろう。同報告書では、カンボジアの女性が経験している暴力の現状とその結果、また女性への暴力の様々な形態についての全国データを集約している 。これらの統計が、人々の意識喚起、暴力予防や対応プログラム・政策へのベースラインとなる情報の提供、女性への暴力の廃絶に向けた活動進捗をモニターすることに貢献することが期待されている。
カンボジアでは特に「親密な男性パートナー(Intimate Partners: 現在の夫もしくは前夫を意味)」による女性への身体的・性的・感情的・経済的暴力と、「犯罪者」による15歳前後の女性への 性的・身体的暴力の2点が深刻な問題となっており同調査の対象の中心となっている。さらに同調査は、暴力を受けたのちの健康状態、対処方法(Coping Strategies)、女性を親密なパートナーの暴力から守るための方法、親密なパートナーによる暴力が増加する理由についても調査を行い、結論では「暴力の予防と対応」のための10の提言がなされている。
以下では調査方法と主な調査結果 をまとめた。
調査方法
地域住民を対象とした世帯調査は、2015年カンボジアにおいて15歳から64歳の女性3,574名を対象として実施された。訓練を受けた調査員たちがComputer Assessed Personal Survey (CAPI)を用いて対面式のインタビューを行った。
主な調査結果
1. 親密な男性パートナーによる暴力
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調査対象の15−64歳の女性のうち21%が親密な・性的暴力を受けた経験があり、そのうち8%は過去12ヶ月以内におきている。
- 親密男性パートナーから身体的・性的暴力を受けたことのある女性のは、その他の様々な暴力を受けた経験がある。
- 親密なパートナーを持ったことのない女性の36%はすくなくとも身体的・性的または感情的暴力を1回は経験しており、このうち20%は12ヶ月以内に起きている。
2. 非パートナーによる暴力
- 調査対象の15-64歳の女性のうち14%は15歳以降に身体的な暴力を受けた経験がある。
- 4%の女性が非パートナーによる性的暴力を受けたことがあり2%は幼少期の性的搾取の経験があった。
- 身体的な暴力の加害者となるのは、被害者女性の両親、兄弟、友人、知人である場合が多い。また非パートナーによる性的暴力は、見知らぬ人、友人、知人、家族の場合が多い。
3. 親密なパートナーによる暴力による怪我
- 身体的・性的暴力を受けたことのある女性の25%は、最低1回は怪我をしている。
- 怪我をした女性のうち90%は保健医療が必要であると感じているが47%は保健医療へのアクセスを求めなかった。
4. 親密なパートナーによる暴力が女性の健康、子どもと賃金労働に与える影響
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身体的・精神的暴力を受けた女性は多くの場合、健康上に問題を抱えている。特に親密なパートナーによる暴力を受けた女性は精神的なストレス、自殺願望や自殺未遂に悩まされる傾向が高い。
- 親密なパートナーによる身体的・性的暴力を受けた女性は中絶、流産、予定外の妊娠をする傾向が非常に高かった。
- 暴力を受けている女性の子ども(6歳-12歳)にも情緒及び行動に問題があり学校生活に困難があると傾向が高いことが報告されている。
- 親しいパートナーによる暴力を受けた女性の3分の1はその暴力が原因となり1年間で最低1日は賃金労働を休んでいると報告されている。
5. 親密なパートナーに暴力を受けた女性の対処方法
- 暴力を受けた女性のうち約半数は誰にも暴力のことを話していない。話をしている女性のほとんどは身内や近所の人に話していた。
- 暴力を受けた女性のうち24%のみが既存のサービスに助けを求めようとした。それらの女性の多くは地元のリーダーや警察に助けを求めた。