モンゴル

モンゴルが社会保障を縮小、緊縮財政へ転換、貧困層への影響は?

モンゴル政府が「小さな政府」へ舵を切ることを余儀なくされている。対外債務が相次いで償還期限を迎える中、金融市場では債務不履行(デフォルト)のリスクも懸念されていた[1]。こうした状況下、モンゴルでは2016年6月に新政権が発足。手厚い予算措置によって社会保障システムの拡充を進めていた前政権とは打って変わって、小さな政府を目指す動きが加速した。

先月、モンゴル政府はデフォルト回避のために国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付けた。その結果が3月27日に議会へ提出された2017年度予算案である。

IMFからの財政支援は、拡大信用供与措置(Extended Fund Facility: EFF)[2]を通じて行われる。これは根本的な経済改革を中長期的に実施することで、マクロ経済の安定性を回復することを目的とした措置。つまり、モンゴル政府が構造改革を徹底的に行うことを求めたため、「財政規律を保ち、緊縮財政を実施する」と言った文言が並んでいるわけである。

IMFが緊縮財政を求めた結果、モンゴル政府はどういった政策を実施することとなったか[3]。まず顕著なのが、各種増税による歳入の増加である。アルコール、タバコ、ガソリン、ディーゼル、自動車、所得、利息に対する増税が実施される。また、社会保障費も構造改革の対象となった。社会保険料の増額、児童手当制度の縮小が盛り込まれている。

特に児童手当制度[4]の縮小は国民生活に大きな影響を与えそうだ。同制度は18歳未満の全ての子供を対象に毎月MNT 20,000(USD 8)を給付することで、子育てや就学適齢期の子供を擁する世帯を支援してきており、ユニバーサル・カバレッジを達成していた。しかし、マクロ経済環境の悪化と政権交代に伴い、2016年6月以降の給付は停止され、今後は所得水準の低い世帯に暮らす一部の児童へと給付が限定されることとなった。

モンゴルではかつて、貧困層にターゲットを絞る条件付現金給付プログラム(CCT)[5]が展開されていた。しかし、2007年にUNICEFが実施した調査によって、ターゲティングに係る運営コストの高止まりと、貧困層を正しく選定することの難しさが指摘された。その結果、ターゲティングは非効率だということとなり、ユニバーサル・カバレッジへ舵を切った経緯がある。

財政規律を保つための構造改革の一環で、かつて非効率とされたターゲティングへの先祖返りとは、何とも皮肉なことである。そして何よりも、緊縮財政のしわ寄せは、貧困層や脆弱層、そしてターゲティングから漏れてしまった中間層へやってくることは歴史が証明している。


[1] 日本経済新聞. 2017. IMFなど、モンゴルに55億ドル支援、資源輸出低迷で.
[2] IMF. 2016. IMFの融資制度.
[3] The UB Post. 2017. Draft of amendments to the 2017 state budget complete.
[4] 敦賀一平. 2017. モンゴルの社会保障-子供基金プログラム.
[5] 敦賀一平. 2016. 条件付き現金給付(Conditional Cash Transfers: CCT).

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