マラウイ農村の公衆衛生の課題は?
世界遺産マラウイ湖に面した町、コタコタ。この町のはずれにある農村で、トイレを各家庭に設置してもらうプロジェクトが数年前から行われている。マラウイの農村では、文化的・経済的な側面からトイレがなかったり、正しく使用していなかったりする家庭が多い。汚物を正しく処理しないと、公衆衛生の環境は非常に悪くなる。排泄物の管理不足で飲み水が汚染されたり、手を洗わず菌が蔓延してしまったりする。そんな劣悪な公衆衛生環境が、幼児の死亡原因となっている下痢や毎年流行しているコレラの原因となっている。
日本で生活しているとトイレのない生活は想像し難いかもしれないが、大自然にあふれたマラウイでは、かつて「トイレがなくても生活できる」環境があった。牛やヤギの排泄が道に転がるように、人間の排泄もそこにあり、大自然の力で環境は保たれてきた。人口密度が少なく、下水施設が全国で完備できていないマラウイでは、自然の力で汚物を処理するのが一般的だった。しかし、その慣習に従ったままでは病気を減らすことができない。そのような背景から、自治体のオフィサーが国際NGO主導のもと毎月1回以上農村でサニタリーモニタリングを行っている。
サニタリーモニタリングとは?
2016年5月、私が所属するコタコタ県コミュニティ開発事務所にて行われたサニタリーモニタリングの様子をご紹介したい。コタコタ県マレンガチャンジ、ンポンデ、ンツブラという3農村約300軒を3日間かけて訪問した。下水施設が整っていないマラウイのトイレは、コンポスト式トイレが一般的(以下写真ご参考)。ある程度貯めた後、たい肥として使用するのだ。
トイレを確認する項目は以下5つ。日本ではすべて当たり前のことばかりだが、マラウイでは全ての項目を合格している家庭は少ない。
- トイレの蓋がある(たい肥にするためには、蓋をする必要がある)
- 屋根がある
- 手洗い場がある(石鹸付が理想)
- 入口にドアかのれんがあり、プライバシーが保たれる
- 清潔に保たれている
訪問販売の営業マンのように、オフィサーが1軒1軒を訪問して項目を調査し、問題がある個所は次回訪問までに改善してもらうように指導を行う。結果は、トイレがない家は約12%、手洗い場がない家は約40%(石鹸が置いてある家は210軒中5軒)だった。
(表には手洗い場がないと答えたのは5%となっているが、当日に改善するといった住民はOKになっているので、実際はもっとたくさんいる。)
日本では当然のように設置するトイレだが、マラウイでトイレを設置するように住民にお願いするのは難しい。トイレ設置・管理にはコストがかかるという経済的な問題と、今までの生活ではなくても困らなかったという慣習的な問題があるためだ。コタコタ県ではトイレ不要論の対策として、オフィサーは村の権力者(村長など)に協力を仰ぐことを行っている。権力者にお金を渡し、彼と一緒に各家庭を回り、トイレを作ることを指導してもらう。それによって、村人はトイレを作るようになる。村の権力者がトイレを作ることに好意的であればプロジェクトは上手く進み、批判的であればプロジェクトは上手く進まないという。この対策の問題点は、村の権力者にお金など利益が集中してしまうこと。トイレという日本では当たり前のことが、マラウイでは如何に難しいかを垣間見た経験であった。
このような現場のオフィサーの地道な活動が、農村の生活改善につながっていく。途上国の問題に対処するには、急激な変化を起こす技術だけではなく、毎日の積み重ねや努力が重要なのだと感じた。