仕事や日常生活の言語環境はというと、ヤウンデでの仕事では基本はフランス語を使うが、「英語圏の人」と分かっている相手と話すときは英語、となる。職場では仏語圏のスタッフが何故かおもむろに英語で話しかけてくる時もあるので、常に英仏、そして日本語の言語スイッチを切り替えながら仕事をする。外で他国ドナー関係者も出席する会議に出ると、これまた基本フランス語であるものの、おもむろにイギリス人が英語で発言するとしばらく英語でのやりとりが続き、そしていつの間にか誰かがまたフランス語で話し始めて・・・ということが頻繁に起こる。スピーキングの得手不得手はあっても、カメルーン人・外国人問わず、カメルーンで働くということは、いつどこでどちらの言語で話されても受け止める心の準備が必要なのだ。
とはいえ、バイリンガルでないといけないわけでもない。仏語圏出身者でも、程度に差はあるものの公務員なら多くは英語も話せるため、英語しか話せない来訪者との面会は英語でがんばってくれる。そんなわけで、念のためと英仏通訳を連れて行ったのに、結局先方ががんばって英語で話してくれたため不要だった、ということも。英仏公用語、と言っている国の首都だけあって、どちらでも受け止めてくれる寛容さを感じることも多い。
そして町の人々、タクシードライバーや道端の売り子はどうかというと、ヤウンデでは主にフランス語と現地語(ちなみに英語圏に入ると看板も人が話す言語もフランス語から英語に変わる)。仏語圏では英語はちょっと、そしてピジン語(Pidgin, くだけた英語が現地化して定着した言語)率高め。そして英仏が混ざったFranglais、さらに全部混ぜて話してしまう 「Camfranglais(Cam=現地語、fran=仏語、anglais=英語)」もアリ、と、かなり何でもありである。仏語圏ではフランス語、英語圏では英語が話せないと難しいことがあるかもしれない。でも皆フランス語は話せるので、現地語やPidginしか話せない人と会ってコミュニケーションが取れなかった、という状況に陥ったことはない。皆、話し相手によってコロコロと使用言語を変えている感じだ。
カメルーン人との言語の話をしていると本当に奥が深く、言語学者だったら面白いだろうと思うこともしばしば。生活していると、日々のコミュニケーションから、フランス語と英語という主要言語を大切にしつつ、もはや「何でもOK」状態になっているのが日々感じられる。もちろん、「何でもOK」な結果、正しいフランス語や英語を話せなくなるという危険性があるのも事実だが、この国で「言語」は、バイリンガル国であることを誇りに思いダイバーシティを大切にしているカメルーンの特徴が垣間見える、文化の一面なのである。