ルワンダ政府が、農業依存から「知識基盤型経済」への移行を掲げたのは、2000年に国家目標「VISION 2020」を作成したときのことです。人口密度がアフリカで最も高いルワンダでは、農業に利用できる土地は既に使い尽くされているため、農業に依存しては急増する人口を吸収できません。また、内陸国で物流に大きな制限があるため、製造業にも限界があります。これらの所与の条件を踏まえ、土地に依存する経済からサービス業を中心とした経済への移行を目指すことがルワンダの国家ビジョンとなっています。以来、ルワンダ政府は、貧困削減戦略(PRSP: 2002-2007年)、経済開発貧困削減戦略(EDPRS: 2008-2013年)、第二次経済開発貧困削減戦略(EDPRS2: 2013-2018年)に基づいて、発展を進めてきました。
パネル・ディスカッションの前半では、こうして進んできたルワンダの発展について、過去10年の実績を振り返りました。
産業構造を転換し、若年層の雇用を創出する上で重要な役割を担ってきたのが職業訓練です。ルワンダ政府は、TVET(Technical and Vocational Education and Training)と呼ばれる技術系の教育・職業教育に力を入れ、毎年20万人の新しい農業外(off-farm)雇用を生み出すことを目標に掲げてきました。JICAが設立を支援したトゥンバ高等技術専門学校のパスカル・ガタバジ(Pascal Gatabazi)校長が、職業訓練と雇用創出の実績について紹介しました。
サービス業の中ではICT(情報通信技術)産業の発展が重視されており、徐々に若い起業家たちが活躍を始めています。光ファイバー通信網や携帯電話高速データ通信(4G LTE)等のインフラが整備され、ICTを活用した政府の効率化、民間セクターの活性化が次の課題です。民間セクターからのパネリスト、クラリス・イリバギザ(Clarisse Iribagiza-Abakunda)は、学生時代に携帯アプリのプログラム会社(HeHe Labs Ltd.)を起業した、ルワンダでは著名な起業家でした。
忘れてはいけないのが、インフラの整備です。過去10年間にルワンダでは、電力へのアクセスが4.3%から19.8%まで向上、安全な水へのアクセスも70.3%から84.8%に向上しました。携帯電話の普及も6.2%から63.6%と拡大しています。こうして整備されてきた経済・社会インフラが、最貧国だったルワンダの貧困削減や生活の向上に寄与し、新たな産業作りの土台になっています。電力、運輸、給水等のインフラ整備を支援してきたドナーの見解を紹介したのが、アフリカ開発銀行のハンフリー・ンドウィガ・リチャード(Humphrey Ndwiga Richard)でした。
また、パネルではあまり議論できなかったのですが、「知識基盤型経済」と言っても、まだまだ農業の役割は重要です。依然としてルワンダでは、人口の7割以上が農業に従事しており、GDPの約3割が農業です。農業の生産性向上、市場を意識することによる農家の収入向上、灌漑等による気候変動への対応等は、農家の生活に直結しますし、農産品加工は産業多様化の第一歩と期待されています。
次回は、パネル・ディスカッションの後半で議論された、今後のルワンダの課題について紹介します。
注:文中の国家統計は、ルワンダ政府統計局による家計調査(2005/2006年のEICV2と2013/14年のEICV4の比較)に拠る。
- ルワンダの目指す「知識基盤型経済」とは:JICAルワンダの10年を振り返る(1月12日掲載)
- ルワンダが進む「知識基盤型経済」への道程(1月15日掲載)
- Vision 2020を超えて-ルワンダのこれからの開発課題(1月18日掲載)
- JICAの貢献と今後の開発協力の役割-ルワンダ(1月20日掲載)
(JICAルワンダ事務所次長 室谷龍太郎)