貧困削減にまじめに取り組もうと考える政策立案者にとって、一時点の貧困指標は十分ではない。一時的貧困と慢性的貧困への処方箋は同じではないからだ。長期間治療が必要な生活習慣病を治すために、インフルエンザの抗生物質を1週間処方するのでは根本的な解決にならない。それは当たり前と言えば当たり前のことだ。
しかし、これを実行するためには大きな課題を克服しなければならない。どんなに「優秀」と言われる開発途上国を見ても、家計調査をパネルデータで構築している国はごく稀。この背後にはおそらく2つの理由がある。
1つ目は、技術的問題。パネルデータの構築には、まったく同じ家庭を3~5年後にもう一度訪問し、同じ質問をする必要がある。そうすることで数年間の変化を同一家庭で調べることができる訳だ。これは簡単ではない。統計局の能力が必要だし、住民登録がしっかり整備されていなければ実施は難しい。ましてや、奥地の農村地帯ともなれば、物理的なアクセスが困難で、ようやくたどり着いたとしても、都市部へ移住してしまっているといったケースも多々ありそうだ。
2つ目は、予算的制約。パネルデータの構築は高い。それ故、全国規模でパネルデータを構築している例はあまり記憶にない。たいていのパネルデータは、村単位であったり、地区単位であることがほとんどで、より大きな単位での調査を行った事例は少ない。
こうしたことから、全国規模で家計調査のデータをパネルで取得することは非現実的であり、一時的貧困と慢性的貧困を峻別するためには、パネルデータに依拠しない代替策が必要となる。
ではどうするか?マケイとパージが行った研究が一つの光を見出している。
一時点のデータから算出可能な絶対的貧困指標が、慢性的貧困指標と近似していれば、絶対的貧困を求めることで、慢性的貧困をおおよそ把握できるのではないか?
この問いに答えるために、彼らは12ヶ国で取得したパネルデータ23件を用い、計量分析を行った。その結果は、「絶対的貧困は慢性的貧困を計測するために、信頼のおける指標である」といった前向きなものだった。
もちろん、精緻さの観点でパネルデータに勝るものはないが、この研究成果は実務的に意味のあるものであることは理解に容易い。