11月3日、ジョコ・ウィドド大統領が雇用創出に関する2020年法第11号に署名しました。これはオムニバス法、あるいは雇用創出法と呼ばれ、インドネシア政府が2月12日に下院に提出した草案がベースとなっています。労働法については約20年ぶりの大きな改革、社会保障に関しては約5年ぶりの改革となります。
政府の説明によれば、同法自体は雇用、社会保障、その他多くの社会経済問題を含む多くの法規制を上書きし、ビジネス環境の改善や雇用形態の変化に対応することを目的としたものです。一方、労働法の改正が本丸であるため、不十分な対話や労働者の権利が損なわれるとの懸念から、法案の撤回を求める大規模なデモが全国各地で起きました。最低賃金、雇用形態の流動化、退職金の削減、雇用保険の新設が争点です。
社会保障に関しては雇用保険・失業給付制度(Jaminan Kehilangan Pekerja: JKP)を創設し、その運営をBPJS Employmentが担当することが決まりました。BPJSは既存の4つの制度に加え、JKPを運用することとなります。同法によれば、失業者は最大6ヶ月間の失業給付、労働市場情報へのアクセス、職業訓練を受けることができるようになります。インドネシアの社会保障関連法では、制度設計を法ではなく政令に委ねることが慣例となっていて、同法でも制度設計の詳細については政令で規定することを認めています。
雇用保険のスケールの話をすれば、総人口2.7億人のうち労働人口は1.3億人いて、そのうち5千万人が賃金労働者。現行の労災保険には3千万人の賃金労働者が加入しています。雇用保険をこれらの被保険者に適用すれば、3千万人が初期のカバレッジとなります。厳密には、このうちの9百万人は建設業の賃金労働者で、労災には「別枠」で加入しているため、同じ労災被保険者でも事務的には別扱いで処理されています。そのため、制度設計後に、もう一段超えなければならない事務的な課題はあります。
ILOは厚生労働省やファーストリテイリングの支援を受け、制度設計に関する技術協力を実施してきました。技術協力は多岐にわたりますが、失業給付をいくらにして、何か月もらえるようにするか、保険料の納付期間等、制度の細則に関するメリット・デメリットを国際労働基準に照らし合わせながら、経済社会状況に合わせて社会対話・技術支援していくことなどが含まれます。
多くの国際機関やJICAのような二国間援助機関が政府のみを支援対象とするのに対し、ILOは政府・労働者・経済界を支援対象とします。ILOが三者構成と呼ばれる所以です。技術協力・政策提言を行う際にも、科学的な経済・社会分析のみによらず、三者の代表が合意した国際労働基準が根底にあります。
日々の具体的な活動に焦点を当てれば、地道な対話や調査が大部分を占めます。国会での議論が始まれば、国会答弁、政労使の交渉、政府内協議が四六時中行われ、これらの過程で各所から聞かれる制度設計に関する様々な質問に答えるのも仕事の一環です。政府へは官僚の国会待機のさらに後ろで待機しつつ、政府との交渉・対話を行う労働者・使用者団体から要望があれば、同様に支援するのも仕事です。
いずれにせよ、大多数の賃金労働者が失業時に十分な所得保障を受けられる制度設計にするべく、協力しているところです。
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