ボン大学とカンボジア開発資源研究所(CDRI)の研究者が、カンボジアの農民がいかに生計を立てているか解き明かすことに挑戦した。調査対象地域はカンボジア北部の町ストゥントレン。農民がはいかに生計を立て、どういった貧困リスクと脆弱性が潜んでいるのか。こうした研究はカンボジアでは非常に少なく、この研究成果の貢献は大きい。
カンボジア全土を見渡せば、脆弱性の根源は農作物の生産体制と輸出製品の構成から見て取れる。カンボジアは主にコメの輸出によって歳入を確保している。国内のコメの生産高の上昇にもかかわらず、価格競争力はベトナムなどの隣国に比べて相対的に低い。主たる要因は輸送費と脱穀にかかる費用。また、コメの生産のほとんどは小規模農家であり、その多くが1ヘクタール以下か、まともな耕作地を保有していないとされる。また、漁業・林業資源は、人口増加や民間企業の進出により低下の一途をたどっている。
ストゥントレンは多様性に富み、最も貧しい地域の一つ。その90%が森林に覆われ、自然に恵まれた土地であるものの、近年は森林・漁業資源の減少に悩まされている。住民の大部分は貧困層に位置づけられ、その85%が小規模農家である。識字率も65%を下回る。また、整備された給水・衛生設備を有する家庭は18%。安定した電力供給を受けられる家庭は14%にとどまる。
同研究では600世帯を対象に家計調査を行った(同地域に居住する住民は95,000人、17,900世帯)。これらの世帯は、クラスター分析と主成分分析によって、以下の5つの異なるグループに振り分けられた。クラスター3と4は比較的裕福な家計であり、他の3グループは高い貧困率を示した。
- 小規模農家(21%)
- 漁業・林業(44%)
- 自営行・換金作物農家(13%)
- 高度な技能を有する労働者および家畜生産農家(13%)
- 非農業従事者(9%)
それぞれのグループが脆弱な特徴を持ち合わせている。作物農家についていえば、平均2.8ヘクタールの耕作地を有するものの、52%の圃場が法的な権利書のない土地である。こうした事情は生計が法的なリスクにさらされていることを暗示している。また、農家の85%は稲作を採用しており、生産高の71%を自家消費している。
畜産はストゥントレンにおいてもう一つの主要産業であり、住民の82%が家畜を有する。52%の家庭が鶏を有し、平均すると14羽を保有している計算となる。これは農民にとって養鶏が用意に始められる投資の一種であることに起因する。バッファローは耕作や蓄財の目的で46%の農家で飼育されている。また、42%の農家が食用で養豚を行っており、20%が牛の飼育を行っている。どの農家も複数の家畜を飼育していることが多い。
漁業・林業に従事する家庭は77%で、ストゥントレンが水資源や森林に恵まれ、住民が自然と共存していることの裏返しとなっている。
移民はストゥントレンでは顕著な役割を担っていないようだ。若者を覗けば、全体の6%しか仕事を得るために移住していない。首都プノンペンから遠く離れていることが影響しているのだろう。
さらに、調査対象家庭の多くは何らかの課題を見出している。過去20年の間、気候変動の影響を実感している家庭は99%に上り、降雨量、高温、強風といった具体的な例を挙げた。森林・野生動物の減少などから、生産活動が潜在的な問題を起こす原因となっている可能性も示された。これらの環境の変化は今後も続くと考えられるため、将来にわたって対応しなければならない課題と考えられる。
参考文献
Buhler et al (2015) Rural Livelihood Strategies in Cambodia: Evidence from a household survey in Stung Treng.