日本は過疎化が進み、農業後継者不足が大きな問題となって久しいが、同じような問題が今、東南アジアの各地で起きている。今、私が住むタイでは、1970年代からの急速な経済成長が新たな産業と貿易、経済活性化をもたらし、多くの雇用を生み出した。その底辺にいたのが貧しい農村から都市部へ職を求めて移動した港湾労働者や日雇い労働者たちだった。住む所や安定した収入のない彼らは、湿地や公共の空き地にバラックを建て、そこに人が集まり、スラムが形成され、今ではその数がバンコクだけでも2,000カ所を超えるというから驚きだ。国連の統計だと、バンコクの住民の25%、4人に1人はスラムの住人だという。
そして同じような、いや、もっと深刻な問題が近隣の開発途上国で起きている。例えば、カンボジア。近年の経済成長は目覚ましく、年間GDPの成長率が7%近くになり、産業や経済の中心の都市部ではより多くの労働力の確保が急務になった。そこに、雇用を求めて地方から首都への労働者の流入が加速化し、カンボジアの全都市人口の55%がスラムに住んでいる(国連統計)というから、さらに驚く。電気がないところも多く、水道や下水の設備もなく、犯罪や覚せい剤・麻薬常習者が巣食い、不衛生で、伝染病や環境汚染の元凶となっている。洪水や台風などの自然災害により一番大きな被害を受けるのもスラムで、このままでは、都市化が社会の持続可能な発展に寄与するとは、とてもいい難い気がする。
カンボジアやラオスのような後進国が中進国の仲間入りをするために、世界銀行や国際通貨基金(IMF)はGDPの年間成長率7%達成を条件の一つとして挙げている。そのため、産業や経済の成長に重点がおかれ、本来、社会保障制度や福祉政策で救済しなければならない貧困層やスラムの住民たちに対する国家予算が十分確保できず、貧富の差や都市内部での生活レベルの格差の拡大を、助長する結果になっている。
国連の予測だと、今後、さらに農村部の過疎化と都市部への人口の流入が進み、2030年には世界の人口の60%が、50年には65%以上が都市に住むといわれている。しかし、本当に都市化は避けられないのだろうか。開発途上国においても交通網が発達してきた昨今、経済や産業の中心を地方に分散し、地方都市を中心としたその地域の特性を生かした経済圏の創出、それによる地場産業の育成や雇用機会の提供など、過疎化と都市化の双方を食い止める方策がどこかにあるような気がする。
THE POVERTIST 2018年9月1日号
新興国の挑戦 2018年9月1日号 好況が続く世界経済は、中所得国を高所得国へ押し上げただけではなく、多くの低所得国を中所得国へ「卒業」させた。「中所得国の罠」で語られるように、中所得国は特有の新しい挑戦に立ち向かわなければならない。
THE POVERTIST 2018年8月1日号
残された課題 2018年8月1日号 暗い影を落とした金融危機の記憶はとうの昔に人々の脳裏から離れ、好況に沸く世界経済の恩恵を多くの人々が笑顔で迎えている。経済成長が貧困削減を推し進め、広がる格差に歯止めを掛ける政策は後手に回っている。
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