第二回では、食料と農業のうち食料について考えてみたい。特に開発の観点から、食料安全保障に貿易がどう関係しているのか見ていこう。
食料とは、財のひとつだ。財である限り、生産したり、交換したり、売買したり、貯蓄したり、消費したりできるものだ。食料は財の中でも人間が生きていく上で欠かすことの出来ない、基礎となるものだ。その一方で残念ながら現実には食料に十分アクセス出来ず、“Food insecure”(必要な食料を安定的に入手できない状態)と見なされる人びとが世界には今約8億人存在している。
FAOによれば、食料安全保障は「全ての人々が、活動的で健康な暮らしを送るために必要な、十分で、安心且つ栄養のある、それぞれの食事や好みにあった食料に物理的・経済的にいつでもアクセスできる時」に達成されると定義している。FAOは更に食料安全保障の概念を①availability、②access、③utilization、④stabilityの4つの側面に分解しているが、こうするともう少しわかりやすい。シンプルに言えば、安全で栄養のある食料が十分に存在し、且つ人々がいつでも必要な時に必要な食料を入手出来る状況が、食料安全保障が達成されている状態、と考えればいいだろう。
こう考えた時に、貿易は間違いなく食料安全保障に貢献すると言っていい。いくつか例を挙げれば、貿易を通じて、ある国の国民はその国では生産出来ない食料を手にすることが出来る(availability、utilizationの改善)。市場の競争性が高まれば、適正価格が導かれ(価格の低下)、消費者はより安い値段で食料を入手出来る(Accessの向上)。また天候不順等の何らかの問題が発生しある国の食料生産が一時的に減少した場合でも、輸入により食料を入手出来る(Stability)。貿易は4つの側面全てで食料安全保障を改善しうる。
逆に、食料を輸入に頼りすぎると国外の環境に対する脆弱性が増す、というのも正しい見解だろう。そのため、他国の輸出規制や国際紛争に備えて食料自給率を高く保つべきだと言う意見もある。ただ、食料が市場で取引される財である限り、購買力を持っていれば入手する手段は必ず存在すると考えられる。2008-09年や2011年の食料危機のような一時的な食料価格の高騰の可能性は今後も排除されないが、長期的には穀物価格は下落を続けている。そもそも世界には自然環境の制約から食料自給を達成出来ない国もあることを思うと、食料安全保障のためにには自給率に過度にこだわらずに、食料貿易は食料安全保障を達成するためのツールだと明確に認識されるべきだろう。
次回は食料と農業のうち農業について、食料を考える時と異なる視点を考えてみたい。
- 農業開発の倫理とは-食料貿易論争を通じて見える2つの視点(1月26日掲載)
- 貿易は脅威でも万能薬でもない(1月27日掲載)
- 食料-取引可能な財(1月28日掲載)
- 農業-途上国の多くの人びとのなりわい(1月29日掲載)
- 農業を巡る倫理的観点-経済・社会的観点とは異なる視点(1月30日掲載)
- 開発でも2つの視点を(1月31日掲載)