地球規模課題と拡大するNGOsの役割
開発課題・貧困削減といった地球規模課題に対しNGOsが政府機関や国際機関、民間企業と等しく重要なアクターとして認識されて久しい。1945年、国連憲章にNGOsに位置づけが明記されたことを契機とし1970年以降、政府の失敗や市場の失敗を補填するアクターとして NGOsと市民社会の役割が注目を集めその数及び規模は国際的に拡大していった。現在、その活動は 国境を越え、政府機関や国連機関からの助成による特定のプロジェクトやプログラムの実施に止まらず、政府機関への政策提言や啓発(キャンペーンロビー活動等)を含めたアドボカシー活動、さらに上記の活発化させていくための国内外のネットワークの形成等多岐に渡るようになった 。
エチオピアにおけるNGOsの台頭
エチオピアにおける昨今のNGOsの活動の歴史は 1973-74 年及び1984-1985 年の飢餓に際し、国際機関や政府機関と並び多くの国際NGOsが支援を開始したことに始まる。そして、1991年社会主義政策を実施していたメンギスツ政権が崩壊したことによりNGOsの数と活動の規模が拡大していく。さらに、 1995年エチオピア連邦民主主義共和国樹立後、メレス政権時に施行された「1995年憲法」において「結社及び表現の自由」が認められたことにより国内NGOsの形成及び活動も更に活発になっていった。このような憲法が施行された背景には、同政権が経済社会開発のためには国内外のNGOsをはじめとする市民社会の存在が不可欠であると認識していたためとされている。
国内法整備
他方、NGOsの活動が活発になると多くの国ではそのような組織を認証する法律が定められるようになる。一般的にこの法律が、NGOsの活動を大きく左右する。エチオピアも例外ではない。2009年にNGOsの認証を目的として2009年CSO法 (Proclamation to Provide for the Registration and Regulation of Charities and Societies: CSP)という法律が制定された。エチオピア慈善社会機構 (Ethiopian Charities and Societies Agency: ChSA)という政府機関が同法律に基づき認証の運営・管理を実施している。同法律は元来、エチオピアにおけるNGOsの活動を国際基準に高めることを目的としていたがそこには大きな問題があった。
人権問題を中心としたアドボカシー活動に対する締め付け
同法律では人権やジェンダーの平等、宗教の平等、障がい者の権利や子どもの権利、紛争の調停や和解を求める一切のアドボカシー活動を制限(※)しているのだ。実際、これを制度上確約させるように、上記アドボカシー活動を行う場合、NGOsは同活動経費の約90%を国内からの寄付で賄うことを義務づけているのだ 。これは、多くの活動経費を海外のドナーエージェンシーに依存するNGOsにとってはほぼ不可能な数字である。
同法律の下、2014年12月時点で3,181ものNGOsが認証登録をされている。このうち約10%が国際NGOsとされている。しかし、この法律によりエチオピアではNGOsの活動は、概ね特定のドナーからの援助による箱もの案件の実施や緊急人道支援等に制限されている。
エチオピアのNGOsと市民社会の展望
このような国内法が、NGOsひいては市民社会の自由を制限することは非常に残念なことである。国際社会から注目を集め世論を形成し同政府にプレッシャーをかけていくこと、同時にエチオピア国内において民主主義が定着することによりNGOsの活動の制限がなくなりより成熟した市民社会が形成されることが望まれる。
※2008年には「メディアの自由と情報取得に関する法令(Proclamation to Provide for Freedom of the Mass Media and Access to Information)」が制定されており、これが市民社会の表現の自由及びメディアによる報道の自由が制限された。これらもNGOsの広義でのアドボカシー活動を阻害する要因のひとつとなっている。