アフリカ

イノベーションとカイゼン―アフリカはどちらを必要としているのか?

Photograph: World Bank
Photograph: World Bank

イノベーションが熱い。イノベーションは今、開発援助関係者の間で注目度ナンバーワンのトピックとなった。実務家、研究者、ビジネスパーソン、誰もがイノベーションという言葉を使い、その響きに魅了されている。英語では「Change the Game(ゲームを引っくり返せ)」が合言葉となった。9回裏2アウト。開発途上国はサヨナラホームランを狙うホームランバッターの登場を待ち望んでいる。イノベーションは昨日までの世界秩序を一瞬で変える魔法のようなものだ。開発途上国が先進国に追いつけ追い越すために、期待を一身に受けているのがイノベーション。画期的な技術革新とアイデアだ。

だが考えてほしい。開発と貧困削減のために、イノベーションは本当に必要なのだろうか。イノベーションがなければ目標を達成できないのだろうか。大きな疑問が残る。

もちろん、革新的な技術が重要な役割を果たしてきたことは否定しない。M-PESAは、携帯電話を活用したモバイルバンキングを広め、ケニアの貧困層へ金融サービスを届けた。フェイスブックとユーテルサットの衛星通信もアフリカの奥地へインターネットを届ける素晴らしい試みだ。こうした民間企業の取り組みはとても心強く、個人的にも期待感を抱いている。

イノベーションは宝くじのようなもの

Photograph: DFID
Photograph: DFID

私の心配は、政策立案者や開発援助従事者がイノベーションに注力しすぎることだ。技術革新を切望することは夢のあることだが、いつ当たるかわからない宝くじを待つようなもの。いつ何時、どのような技術やサービスがアフリカに提供されるか、誰もわからないのである。

民間セクターがゲームを引っくり返すようなイノベーションを生もうと努力しているあいだ、公的セクターは経済の土台を作るべく産業政策に力を入れるべきだろう。開発パートナーは開発途上国政府のそのような努力に寄り添い、サポートしていく必要がある。

イノベーションとカイゼンの違いはどこに?

先日、ニューヨークで行われたセミナージョセフ・スティグリッツ教授(コロンビア大学)は、「アフリカの将来を考えたとき、経済構造転換と産業政策が重要である」と見解を示した。その上で、「アフリカは日本の経験から多くを学ぶことができる」と付け加えた。日本の経験とは何を指すのだろうか。日本の産業政策と経済成長を支えたアプローチ「カイゼン」に他ならない。

カイゼンは文字通り「改善」のこと。日々の小さな問題に気付き、明日の自分に改善を促す。日本人にとって当たり前のことが、世界では「KAIZEN」として注目を集めている。

イノベーションが一人のカリスマと新しい技術によって生み出されるのに対し、カイゼンはどちらも必要としない。たった一人で、何も使わず、革命を起こすことができる。それがカイゼンの極意だ。一人一人がカイゼンを実施すれば、国民すべてが変革の立役者となる。

カイゼンの大きな特徴は、誰もが実践でき、誰もが結果を実感できること。それが一人一人のモチベーションとなる。技術も資源もいらない。焼け野原だった日本が生み出したアプローチ、カイゼン。だからこそ、無い無い尽くしのアフリカ諸国でさえ、その気になれば明日から始められるのである。

カイゼンは開発途上国にどのような影響を与えられるのか?

カイゼンは5つの”S”から成り立っている。整理、整頓、清掃、清潔、躾。日本人にとっては、いたってシンプルなコンセプトだ。

Photograph: JICA
Photograph: JICA

5つのSに基づいて、工場労働者は日々業務改善を求められる。病院でもオフィスでも同じだろう。日々の反省が業務の効率化につながるのである。

たとえば、一日の作業の終わりに身の回りの整理整頓を行うとする。そうすれば翌朝出勤したときに、何がどこにあり、何から手をつければよいか、迷わずに済む。床の掃除だって同じことだ。身の回りをきれいにしておけば、誰もが気持ちよく働くことができる。これらのカイゼンの結果、生産性の向上と効率化が見込める。日本人にとっては当たり前のことだ。

しかし、日本を一歩出るとカイゼンへの理解は非常に乏しい。カイゼンが利益に直結するものではないからだ。ゲームを一瞬で引っくり返す力はカイゼンにはない。そのため、イノベーションの魅力に取り付かれた人々にとって、カイゼンは数字に表れないつまらないものなのだろう。

だが、トヨタを見てほしい。日本の高度経済成長を支え、世界一の自動車メーカーとなった。そのトヨタが実践してきたアプローチがカイゼンであることを忘れてはならない。

カイゼンのよいところは、誰もが実践でき、一人一人が変化を実感できること。それが業務改善の好循環を生み、強い経済構造の土台を作るのではないだろうか。

カイゼンはイノベーション無き発明である

カイゼンは日々の小さな発明である。新たな技術を要さない発明だ。一人一人が主体となり、社会と国家の産業育成に貢献できるアプローチだ。

私は開発業界で仕事を始めるまで、カイゼンがそれほどすごいものだと思ったことは無かった。どちらかと言えば、「つまらないもの」と感じていた。

しかし、アフリカの援助にかかわるようになった今、カイゼンが日本人の根底にあるスピリットであり、日本の経済構造の根幹を支えていると感じる。

資源も技術もないアフリカの国々が日本から学べるものは何か。今となっては自信を持って答えることができる。

カイゼンの精神である。

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