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開発途上国援助のイデオロギー対立、社会保障セクター編

Old Man

 

 

開発金融機関と国連機関の対立

Boy, Haiti開発援助の世界にはイデオロギー対立がある。右の人、左の人という表現はあまり好きではないが、イデオロギーとはわかりやすく言うとそういうことだ。

一般的に、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)といった開発金融機関は、資本主義的と言われている。報告書を読むとお分かりいただけると思うが、「市場メカニズム」、「生産性」、「経済的合理性」といった言葉が並ぶ。つまり、どのような開発アプローチを取ろうとも、最終的に目指すところは経済やマーケットが念頭にある。

一方、国際連合(UN)の関連機関は、人権アプローチ(Rights-based Approach)と言われることが多い。例えば、緒方貞子さんがトップを務めた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は人間の安全保障(Human Security)というコンセプトを打ち出し、難民の人権を重視した事業展開を前面に出している。

もちろん、個々の職員と話してみると、マーケット主義の人がUNDPやUNICEFにいることもある。職員全員がイデオロギーに基づいて仕事をしているわけではなく、あくまで組織の方向性の話だ。

「国際機関がすべて同じ」と思われている方は、イデオロギーの対立に目を向けてみると、つまらない国際会議も面白く感じるのではないだろうか。

 

開発途上国のイデオロギー対立、社会保障セクター編

Photograph: Living-Learning Programs
Photograph: Living-Learning Programs

私の専門としている社会保障セクターにも当然イデオロギー対立はある。むしろ、イデオロギーの塊のような分野かもしれない。

社会保障分野は、「大きな政府」を模索するか、「小さな政府」を模索するかに大きく左右される。政権交代や政治家のイデオロギーによって180度も方向転換されうるセクターだ。

国際労働機関(ILO)やUNICEFは、社会政策・社会保障を担う国連機関だ。これらは上記の通り人権アプローチを取る。一方、金融機関の方は、世界銀行が社会保障セクターをリードしている。イデオロギーの対立を単純に説明すると、Social Safety Net(世銀)とUniversal Social Protection(ILO)の対立だ。

 

貧困層のターゲティング v.s. 人権アプローチ

Photograph: rbairdpccam
Photograph: rbairdpccam

日本人でこの分野のスペシャリストが世銀に数名、ILOに数名しかいないため、日本語のうまい表現が見当たらない。英語で説明すると、「Targeting」と「Universality」の対立がある。

世界銀行は、最も貧しい人々を細かくターゲティングして現金給付を行うSocial Safety Netというアプローチをとる。最貧層を選定して、貧困脱出に必要なだけの最小額を現金で渡せば、貧困削減が最も効率よくできるというコンセプトに基づく発想だ。専門的に言えば、パーフェクト・ターゲティングを実施すれば、貧困ギャップと同額を財政支出することで貧困率を論理的にゼロにできる。経済的合理性を優先したアプローチといえる。つまり、ターゲットを絞ることによって、財政支出を最小限に抑えることができる。IMFなどのエコノミストが開発途上国へ財政健全化を求めるとき、石油補助金をカットし、貧困層をターゲティングした現金給付(Cash Transfers)プログラムを助言することが多い。

ILOは、貧困層を恣意的に決め、不安定な生活を営む多くの人をターゲティングしないことに批判的だ。ターゲティング一辺倒の社会保障政策ではなく、複数のプログラムでいろいろなグループをカバーすることで、社会保障システム全体で国民全員をカバーする。つまり、Universalityを重視している。これには、人権をベースとした法整備も含まれ、経済的なアプローチだけにとどまらない複合的なアプローチとなる。

 

世界銀行とILOの歩み寄り、イデオロギー対立の終焉?

こうしたイデオロギーの対立は今も根強く残っていると感じる。しかし、歩み寄りもみられる。昨年、世界銀行とILOはトップ同士で共同声明を発表した。

Universal Social Protectionと題した声明は、ターゲティングで一部の人だけをカバーするのではなく、社会保障システム全体で貧困削減や貧困に陥るリスクへの備えを全ての人々へ提供することを掲げている。

世界銀行はILOのシステムアプローチへ歩み寄り、ILOは最貧層に対する社会保障アプローチを開始した(Social Protection Floor: 社会保障の床)。

職員レベルでは、Social Safety Net中心の世界銀行と、人権アプローチのILOという構図はまだまだ色濃いが、イデオロギーの異なる組織同士が良い方向へ向かうことは歓迎されるべきだろう。

細かくはまた別の機会に書きたいと思う。

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