クラウドファンディングで開発援助予算を集めるのが良いのでは?外務省の若手担当官と意見交換をする中で出たアイデアだ。日本には寄付文化が根付かない土壌がある。非営利団体へ寄付が集まる欧米と異なり、開発資金を個人から集めることは、日本では容易ではない。しかし、クラウドファンディングはどうだろうか。スタートアップ企業やNGOがインターネットを通じて寄付・投資を募る新しい仕組みで拡大傾向にあり、ネパール緊急支援でも注目された手法だ。
日本の政府開発援助(ODA)を実施する国際協力機構(JICA)も細々と寄付を募っているが、クラウドファンディングで援助資金を調達した例はない。それだけに、実施できればとても面白い。
JICAがクラウドファンディングで案件予算を調達するとどうなるか?
JICAが案件を実施する場合、一般的にいくつかのステップがある。
- 開発途上国政府から要請を取り付ける(分野・内容が細かく記載されている企画書)。
- 日本政府・JICAで案件審査を行い、採否を決める。
- 閣議決定。開発途上国政府へ採択通知。
- 開発途上国政府と合意文書締結。
JICAがクラウドファンディングで直接資金調達をするアイデアは、2と3を省略するもの。一般的に、JICAが実施する無償資金協力・有償資金協力・技術協力は国民の税金を活用するため、2と3で日本政府で慎重な審査が行われる。そのため、このプロセスに数か月から数年要することもあり、特に民間の感覚からは「足が遅い」と揶揄されることも。開発案件は、問題の発言と関係者の熱意がタイムリーに組み合わさることで実現する。刀鍛冶と同じで鉄は熱いうちに打てが鉄則なはずだが。
もし、クラウドファンディングでJICAの担当者がプロジェクトをプレゼンし、賛同する日本国民からインターネットを通じて直接案件資金を募ることができれば(税控除対象)、賛同の得られるプロジェクトをより早く実施することができる。日本国民にとって日本の援助は、ODAの資金規模や青年海外協力隊(JOCV)といった大雑把なイメージしかない。クラウドファンディングが実現すれば、国民参加型の案件実施が可能になるのではないだろうか。
更に、日本国民に限定する必要はない。クラウドファンディングを通じて全世界から資金を集める。日本の援助のスポンサーを全世界から募る。日本の援助は何をやっているかわからないと言われて久しいが、それならばスポンサーになってもらい、同時に知ってもらう。新しい時代の新しい政府開発援助の在り方ではないだろうか。
どのように仕組みを変えるべきか?
案件の採択までのステップを見直す必要がある。
- 要請取り付け(同上)。
- クラウドファンディングサイトへ案件公開。
- 開発途上国政府と合意文書締結(同上)。
クラウドファンディングで資金調達することによって、2と3のステップを飛ばすことが利点と書いた。一方、資金集めを開始する前に、開発途上国政府への説明と事前合意は不可欠。勝手に企画し、資金が集まってから合意を得られないのでは、元も子もない。しかし、「クラウドファンディングなので資金工面でいるかわからないが、集金できたら実施します」といった無責任な説明も開発途上国政府へできないことが悩ましい。
開発途上国政府との関係では、案件予算が満額集まらなかった場合は、政府予算で差額を補てんして採択する必要はあるかもしれない。たとえば、小規模案件については採択ステップを緩和し、日本政府・JICAで簡易審査を実施し、全て一旦クラウドファンディングサイトへ掲載。その上で、案件予算に不足が生じた場合は政府予算で補てんして採択する。
資金が満額集まった場合だけでなく、集まらなかった場合の「滑り止め」も用意しておく必要がありそうだ。
今後の開発資金の動向?
持続可能な開発目標(SDGs)が今月末に採択されるが、開発途上国へ向けられる開発資金の勢力図がこれまでとは大きく変わると見込まれている。実際、「2002年以来、国内の公的歳入は272%、国際的な公的資金フローは114%、国内の民間資金は415%、国際的な民間資金は297%と、それぞれ大幅に増加(EU MAG)」しており、相対的にODAの影響力が低下し、民間資金の規模が拡大する傾向にある。
様々な資金源が生まれることは望ましいことだが、投資家だけではパンは作れない。誰かが手を動かして実施しなければならない。ODAの実施機関が蓄積してきたノウハウを活用し、民間資金も使った開発援助を実施していくかが今後のカギとなる。
クラウドファンディングの導入は風穴を開ける面白いアイデアだと思う。