大学院の同窓生とばったり会った話
国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部では、国際労働会議(総会)が開催されている。ILOがホストし、全世界の労働・社会保障分野のリーダーが集う会議だ。世界中から政府代表(大臣・高官)、使用者代表、労働者代表(組合)が集い、雇用政策や社会政策について議論する。そのため、ここ数日間、ILO本部は多くの人でごった返している。
売店でコーヒーを買っていると、どこかで見覚えのある顔を見かけた。声をかけそびれたのでメールを送ると、ビンゴ。こんなところで、大学院の同級生に「ばったり」というわけだ。彼は三十台半ばながら、中南米のコスタリカで大臣を歴任している出世頭。今回の会合にも労働・社会保障大臣として参加したようだ。
こうして活躍する知人と会うたびに、「まだまだ頑張らねば」、とエンジンを掛け直す日々である。
多次元貧困指数と所得・消費の貧困の合わせ技
今回は、彼との話で面白いトピックがあったので紹介したい。コスタリカでは、貧困を2つの方法で計測していて、社会保障プログラムのターゲティングにも使っているようだ。
1つ目の計測方法は、所得・消費で計測する通常の貧困指標。貧困ライン以下の人々を貧困層と定義して、貧困率、貧困ギャップ、二乗貧困ギャップを計算する、というおなじみの貧困指標だ。
2つ目は、当サイトでもたびたび紹介している多次元貧困指標(Multidimensional Poverty Index: MPI)。消費だけでなく、教育や保健など数十個の指標を統合して貧困を計測する手法だ。オックスフォード大学貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)が開発し、国連開発計画(UNDP)が人間開発指数(HDI)などに採用していることで有名だ。
興味深いのはここからだ。まず、MPIには所得や消費といった経済指標を一切入れていないということ。つまり、通常の貧困指標とMPIの両方を別々に計測しているという。その上で、両方の指標で貧困層と定義された人々を最貧層と認定しているようだ。UNDPのHDIは所得とそのほかの指標を合わせてインデックスを作っているが、コスタリカのMPIは別々に計測している点で興味深い。合わせて計測すると、インデックス作成時のウェイト(どの指数を重視するか)を決める際に恣意的に操作されうる。これを回避するためだろうか。MPIを別々に計測することになった背景はわからない。
このアプローチは貧困分析だけに留まらない。社会保障プログラムにおける貧困層のターゲティングも、この2つの指標を使って行っているそうだ。つまり、所得や消費水準が低いだけでは貧困層と認められない人々がいたり、教育・保健アクセスの悪い人が救われたり、どちらの指標を重視するかでターゲット層が変わってくる。ここからは私の想像だが、いくつもある社会保障プログラムで、別々の貧困指標を重視し、プログラムごとにターゲティングの重複や欠陥(Inclusion/Exclusion Error)を最小化しているのではないだろうか。
中南米・コスタリカの社会保障の専門家ではないため、実際にどういった運用をしているかわからないが、興味深い事例だった。
かなりマニアックな内容となってしまったが、興味深い事例だったのでご紹介させていただいた。