著者
敦賀一平
背景
本稿は英国開発学研究所(IDS)、仏国開発庁、JICA研究所の共同研究「成長の質」の一環で執筆されたもの。
アクセス方法
The Povertist(pdf)
JICA 研究所-書籍ページ「Growth is Dead, Long Live Growth」 (pdf)
JICA研究所-ワーキングペーパー紹介ページ(pdf)
要約
これまでの成長の質に関する議論の焦点は、経済成長が貧困削減に与える効果だった。一方、ポスト2015を控え、議論の焦点は貧困の「削減」から「撲滅」へと転換しつつある。当然、貧困撲滅には慢性的貧困の解決が不可欠となる。しかし、全国規模の統計データやエビデンスの不足などを理由に、慢性的貧困の実態を踏まえた貧困削減政策の実施が進んでいない現状がある。本論文ではこうした状況を踏まえ、カンボジアの地方部で経済成長期に慢性的貧困がどの程度改善したかを検証した。まず、全国規模で実施された2つの調査結果をもとに、定性的データ(参加型貧困アセスメント)と定量的データ(家計調査)から2004年と2010年の慢性的貧困率を推計した。意外にもこの間、著しい経済成長の達成にもかかわらず、慢性的貧困率は11パーセントのまま変化がなかった。この結果は、経済成長は確かに慢性的貧困層の消費水準を底上げしたが、貧困の悪循環を根源から断ち切るために必要な生産的資産や人的資本の拡充は不十分だったことを示している。また、慢性的貧困層が次のような世帯構成・社会経済的特徴を持つことも明らかとなった。生産的資産の保有や人間開発が限定的、世帯に占める労働力人口の割合が低い、子供の割合が高い、母子家庭、少人数世帯、平均年齢の若い世帯である傾向。さらに、政策的観点から重要なことは、現状の国家貧困線を基準とした貧困測定では、今回確認された慢性的貧困層の多くを捕捉できないということ。つまり、消費以外の指標(人間開発等)においては他の貧困層と同様に低水準にあるにもかかわらず、これらの世帯は貧困削減政策の対象と見做されない可能性がある。この結果は、貧困削減を目的とする政策・案件が、消費だけではなく複数の要因を考慮して受益者選定を行う必要があることを示している。カンボジア政府は国家社会保護戦略を貧困削減政策の主軸に据えており、本論文の分析・政策含意は、同戦略に基づき実施される社会保護案件の対象世帯選定にとって特に重要な意味を持つ。
キーワード – 慢性的貧困、多元的貧困、社会的保護、ターゲティング、カンボジア