大国との関係において、中央アジア地域においては、近年急速に中国による影響力が増しているという強い印象があるのは確かです。中国は上海ファイブ(ウズベキスタンを除く首脳会談)を前身とする上海協力機構(SCO、2001年設立)という中央アジア諸国(中国、ロシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス共和国)と多国間協力組織を設立し、当初の主な目的である中露国境線画定がなされた後はテロ対策機構の創設等から安全保障面での関係を強化しています。また、中国による中央アジア支援は間違いなく増加しており、特に国境を接するキルギス共和国とタジキスタンでは中国の無償援助や融資によって道路等のインフラ整備が大規模に行われているのはこれらの国に行けば一目瞭然です。また中国には、中央アジア地域と西側国境で繋がる新疆ウイグル地域を擁しており、同地域の分離独立運動の脅威があります。中央アジア地域の繁栄と安定は、中国の国内情勢にも影響を与えるリスクがあります。
ロシアは独立後、自国の経済停滞等の影響に加え、独立国家共同体(CIS)を通してのロシアによる中央アジア地域への影響が相対的に弱まりました。しかし、ロシアは、同地域に残るロシア系住民への関心、並びに、大国としての威厳を取り戻そうと、特にプーチン大統領の登場以降、関税同盟やユーラシア経済共同体(EurAsEC)を設立し、同地域との関係や影響力の維持に努めています。特にロシア系住民が北部に多く人口の2割強を占めるカザフスタン(2014年の統計によると、人口約1700万人のうち、ロシア・スラブ系がおよそ23%)は北の国境線6467キロをロシアの中部シベリア地方と接しており、さらに、電力システムや鉄道(シベリア鉄道は一部カザフスタンを通過する)が国境を越えて繋がっていることからもロシアとの適切な距離を保ちつつ、関係を維持しています
欧米諸国は、独立直後の時期は、これらの国々の民主化や人権問題を重視した時期があり、2005年5月のアンディジャン事件以降は特にウズベキスタンと欧米諸国との関係が冷却化しました。しかし、近年は比較的対応を軟化させており、独立後の10年に比較すると、緩やかにロシアと中国の隙間を見て関係構築しているように見えます。
米国は、ウズベキスタンのハナバード空軍基地(2001-2005年)とキルギス共和国のマナスに軍事基地(2001-2014年)を租借していたが、ハナバード空軍基地はアンディジャン事件後の米・ウズベキスタン関係悪化に伴い2005年7月以降撤退、マナス空軍基地もアフガニスタン撤退に伴い2014年7月に閉鎖しており米国は中央アジア地域から撤退しています。他方、ロシアによる同地域への軍事プレゼンスはキルギス共和国のカント空軍基地への駐留やタジキスタンでの軍事基地使用を2042年まで延長したり、旧ソ連の国境線防衛とイスラム原理主義拡大への懸念などから拡大している。
アフガニスタン紛争以降、国際治安支援部隊(ISAF)の展開にあたり、アフガニスタンが中央アジア地域と接続するルートは、北部補給ネットワーク(NDN: Northern Distribution Network)として位置づけられ、国際治安支援部隊(ISAF)向け支援物資がウズベキスタンのテルメズからアフガニスタン北部へ輸送ルートの中心となっています。(ソ連のアフガニスタン侵攻と同じルート)。同ルートは日本のODAによる円借款案件である「タシグザール・クムクルガン鉄道新線建設事業」において、鉄道新線が建設され、山岳地であることから更に輸送力を増強するための電化プロジェクト(上述)が進捗しています。中央アジア地域はアフガニスタン周辺国の中でも最も安定した地域として今後も重要な役割を果たすことは明確です。そのために、同地域の経済的な安定と安全を維持することは国際社会にとって重要課題です。
※複数回にわたって、シリーズ「日本による中央アジア地域支援の展望-安倍首相中央アジア訪問に寄せて」を掲載していきます。
寄稿者:中央アジア・コーカサス開発研究会
- 二瓶直樹(国連開発計画対外関係・アドボカシー局)
- 飯尾彰敏(元中央アジア地域有償資金協力専門家、JICAエチオピア事務所)
- 齋藤竜太(筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)
特集: 日本による中央アジア地域支援の展望
- 第一回 日本による中央アジア地域支援の展望
- 第二回 中央アジア地域の開発の現状
- 第三回 国際社会による中央アジア地域支援
- 第四回 中央アジア諸国を巡る国際関係
- 第五回 今後の展望-日本が中央アジアで果たす役割