概要説明
条件付現金給付(CCT: Conditional Cash Transfers)は、社会保護政策(Social Protection)の一種である。読んで字の通り、条件をつけて、現金を給付し、受益者はその条件を守らなければならないというものである。昨今の貧困削減プログラムの中で、最も人気のあるものの一つであり、その効果・実績は折り紙付きである。
CCTの対義語に「無条件現金給付(Unconditional Cash Transfers)」がある。 CCTの利点CCTの利点は「高い費用対効果」にある。つまり、条件を付けて現金を給付するため、効果的な条件を付けさえすれば、受益者はそれを遵守せねばならず、必然的にプログラム効果は向上するのである。とりわけ有名なのが、メキシコのPROGRESA(OPORTUNIDADES)や南アメリカ大陸諸国の成功事例である。貧困指標に劇的な変化をもたらした。これらの国のプログラムで最もよく用いられたのが、医療や教育についての条件である。たとえば、「妊婦の定期健診のために3ヶ月に1度は通院しなければならない」だとか「子供のいる家庭は子供の出席率を85%以上に保たねばならない」といった条件を付けたりした。こうした条件をつけることで、政策評価段階で当初予想していた結果を効果的に得やすくなるといわれている。そのため、ドナーにとって実施しやすい側面がある。とりわけ、世銀やアジア開発銀行などはこうした援助を得意とする傾向にある。
CCTの波及と応用
ラテンアメリカでの実績を踏まえて、アフリカ諸国での効果を期待されてはいるが、懐疑的な意見も多いようである。それらの理由としては、受益者へのアクセスの問題(道路、通信、ATM等のインフラ)がある。これは、最小限の運営費(Administrative Costs)で最大限の効果を発揮することを目的としたCCTにとって致命的な問題である。そのため、アフリカでのCCTは南アメリカの例をそのまま踏襲するのではうまく立ち行かないのではないか、との意見がしばしば聞かれる。
また、アフリカよりさらに遅れて、アジア地域でもCCTの試みが始まりつつある。たとえば、インドネシアのProgram Keluarga Harapan (PKH)は現在いよいよ施行段階にあり、数年後の事業評価が気になるところだ。また、カンボジアにおいても、国家社会保護枠組み(Social Protection National Strategy)が2010年3月に提出される予定で、世界銀行の主導で「母子保健に関する条件付現金給付(CCT on Maternal Health and Malnutrition)」がすでにパイロットプロジェクトの施行段階に入っている。
日本のCCTにおける関与 日本の援助の枠組みの中でCCTはほぼ認知されていないといってよい(それどころか、途上国における社会保護(Social Protection)分野での立ち遅れが著しいとしばしば言われる)。最もCCTに近いプログラムと言えば、奨学金のプロジェクトだろう。つまり、奨学金を貧しい家庭の子供に支給するときなどは、「貧困」を一つの条件としているのである。しかしながら、これはCCTの概念において、ほんの一部分でしかないことに変わりはない。
外部の参考文献
オンラインで入手可能な論文・報告書
・ADB (2008) Conditional Cash Trransfer Programs: An Effective Tool for Poverty Alleviation?
・DFID (2007) Cash Transfers: An innovative and context specific response to food crises.
・DFID (2006) Using social transfers to improve human development.
・IFPRI (2002) Mexico-PROGRESA-Breaking the Cycle of Poverty.
・IPC (2007) Conditional Cash Transfers in Brazil, Chile and Mexico: Impacts upon Inequality.
・World Bank (2006) Examining Conditional Cash Transfer Programs: A Role for Increased Social Inclusion?