カンボジア

カンボジアの農村で貧困の負の連鎖が始まっている

Photograph: Ippei Tsuruga

コメの国際価格が下落し、カンボジアの市場にも影響が出ている。カンボジア政府としても対策を講じてきたものの、相場が上向く期待感は薄いのが現状である。コメの生産農家、とりわけ貧困農民に対する影響はどうなのだろう。現在進行形の事象であるため、まだデータなければ、分析もされていない。ここでは、限られた情報の中から、コメ価格暴落がカンボジアの貧困層に与える影響について考えてみたい。

貧困削減ペースの鈍化は避けられない

Photograph: Ippei Tsuruga

カンボジアは過去10年間で歴史的に見ても例がない程のスピードで貧困削減を達成してきた。何が成功の要因だったのか思い出してみたい。世界銀行の報告によれば、コメの価格上昇が24%、コメの生産性向上が23%が大きな要因だった。つまり、農村部における稲作の外部環境が良好だったことが、貧困削減を牽引したわけである。

現在の状況に話を戻す。コメの価格が下落し、コメを生産しても中間業者へ売ることができない。貧困削減を牽引した外部環境が180度変化したことがわかる。過去10年間の状況とは全く異なった環境に、カンボジアは置かれているのである。

また、貧困削減の担い手も、一次産業から二次・三次産業へと変化した。世界銀行が10月に公開した経済見通しによれば、「経済成長率は7%を維持し、貧困削減も引き続き期待できる。ただし、貧困削減の担い手は、都市部の縫製業、建設業、サービス業であり、農業の成長は低迷しつつある。」という状況だ。

農村部では農業収入の家計に占める割合が急速に縮小していることも観測されている。農村部の低所得者層の収入の内、農業収入は25%に留まる。収入源の多様化は食糧価格の下落による負の影響を軽減したと捉えることもできるが、同時に、農業収入の急激な低下という側面も軽視できない。

貧困削減の主役が農業から縫製業・建設業、農村部から都市部へと移った。しかし、大多数の貧困層が農村部で暮らしていることに変わりは無い。農村部での貧困削減が鈍化すれば、カンボジアの貧困削減が進まない状況が生まれる。

農村部では実際に何が起きているのか?

米政府系メディア「自由アジア放送」の取材に応じた稲作農家は、「(この地域の)ほとんどの農家が、運転資金を工面するためにマイクロファイナンス金融機関(MFI)から借金をしている」と訴える。コメ輸出大手アムルライス社も、「MFIへの返済期限が先に訪れるため、多くの農家はコメ価格の上昇を待つことができない」現状を危惧するコメントを出した。

また、カンボジアではマイクロファイナンスの貧困削減効果が実証されていない点も気になる。国際的な研究者ネットワーク「経済政策パートナーシップ(Partnership for Economic Policy: PEF)」が実施した調査では、カンボジア国内の11村を対象にMFIから融資を受けた世帯と、受けなかった世帯の所得を比較したところ、両グループの所得にほとんど差が認められなかった。

具体的には、農外自営業収入(農業以外の自営業を営む人々の収入)に関しては、低所得者層は借り入れによるメリットを生かすことができないという結果だった。これは、低所得者層がMFIから小額融資を受け、農業以外のビジネスをスタートすることがいかに難しいかを示している。

カンボジアのコメ農家が陥る貧困の罠

今回の件に関して言えば、中間業者である精米業者が生産農家からコメを買い上げないために、生産農家の在庫がダブついていることが根本的な問題だ。これに端を発し、生産農家はキャッシュフローが厳しくなり、やむを得ずMFIから悪条件で借りれを行っている。いわば、赤字補填のために運転資金を借り入れて、自転車操業をしている状態だ。これではマイクロファイナンスの効果が発揮できるわけも無い。出口の見えない農業収益の低下と、積み上がる負債。低所得者層がより貧しくなる負のサイクルに陥っている可能性も否定できない。

高度経済成長の真っ只中にあるカンボジア。都市部で進む急成長と貧困削減の影に、農村部のコメ農家は完全に隠れてしまっている。経済成長の影が日に日に伸び、農村部の貧困層を覆いつくす前に、有効な対策が必要である。

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