ヨーロッパ・中央アジア

外的世界と絡み合う中央アジア

はじめに

4月末に、中国がホストした現代版シルクロード構想といえる「一帯一路(Belt and Road Initiative: BRI)」に関する国際会議には、中央アジアの多くの首脳が参加しました。第二回目となる会議では、中国は、これまで通りまたはそれ以上に、中央アジアそしてユーラシア大陸、外縁の国々に対する影響力を保持していることを見せつけました。BRIにおいては、中央アジアの巨大な鉄道インフラ開発プロジェクトが注目されています。キルギスでは、国内のウラン炭鉱における環境汚染に反対する市民抗議デモが拡大し、政府の意思決定に影響を与えました。5月18日に、日本は中央アジア諸国と「中央アジア+日本」外相会合を開催し、中国のBRIを意識しつつ、今後の中央アジア地域協力支援に関する方向性を表明しました。最後に、筆者が今月訪問した東南アジアのラオスと中央アジアのキルギスの有する意外な共通点をまとめました。

第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの参加国

4月26日、中国の北京にて、中国の習大統領は、約2年ぶりとなる「一帯一路」国際協力サミットフォーラムを開催しました。今回のフォーラムには、計36ヵ国の首脳が参加し、昨年の29よりも7ヵ国多くの首脳が参加しました。中央アジアからは、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの3ヵ国の大統領に加えて、3月末に退任したばかりのナザルバエフ前大統領(現在、院政を敷いていることを考えると実質的な指導者)が参加し、中国との強いパートナーシップに根付いた関係にあると言えます。トルクメニスタンの不参加は、永世中立的な立場を有し、国際的な枠組みには通常消極的であることを考慮すると想定の範囲内といえます。

参加者に関する他の特徴としては、東南アジアASEANからほぼ全ての国々の首脳が参加(インドネシアのジョコ大統領除く、BRI関連プロジェクトに関する国内債務の問題や中国との南シナ海問題が影響したとみられている)したことが挙げられます。また、ロシアとアゼルバイジャンをカウントして12ヵ国の首脳が欧州から参加しています。しかし、独、仏、英といった欧州の主要な国々は不参加で、オーストリア、ポルトガル、キプロス、アゼルバイジャンが初参加となりました。アフリカ大陸からは前回、ケニアとエチオピアの2か国が参加しましたが、今回は5ヵ国に増加しました(ジブチ、エジプト、モザンビークが初参加)。

他の特徴としては、南アジアと中東・湾岸諸国からの参加が少ないことが目立ちました。インドは中国との外交上の関係から見送ったとみられておりパキスタンが参加(中国パキスタン経済回廊(CPEC)プロジェクトが進行中)、湾岸諸国からはアラブ首長国連邦(UAE)が唯一の参加国でした。東アジアからは、モンゴルが唯一の参加国で、日本(二階・自民党政調会長が参加)、韓国、北朝鮮からは、今後も首脳レベルでの参加はないことが予想されます。また、トランプ米国大統領の参加も同様です(今回のフォーラムには、国務省の高官も参加を見送り)。前回フォーラム時の米国からの批判に配慮したのか、今回のフォーラム時の習大統領の演説の中では、BRIにおける640憶ドル相当の表明とともに、BRIによるプロジェクトでは、国際的なルールと基準に沿った形で当該国の法令・規則に則って実施されることが述べられていました。

フォーラムの首脳間のやり取りを見ていたところ、ロシアのプーチン大統領、カザフスタン・ナザルバエフ前大統領、ウズベキスタン・ミルジヨエフ大統領、タジキスタン・ラフモン大統領、キルギス・ジェエンベコフ大統領の面子が仲良く談笑している姿が印象的でした。ロシア語を共通語として話すこれらの大統領は、BRIフォーラム以外でも、ロシアが主導する独立国家共同体(CIS)、ユーラシア経済連合(EUAU)、集団安全条約機構(CSTO)等の枠組みでも定期的に顔を合わせる関係であることから個人的な関係の良さを感じました。特にナザルバエフ前大統領が退任した直後のタイミングだったこともあり、旧ソ連時代からの古き良き友たちが、大統領職28年間の労をねぎらう絶好の機会になったのではないでしょうか。

さて、BRIフォーラムには積極的な参加をしていない日本や米国は今のところ足並みをあわせて、BRIによる支援を国際的スタンダードに則り、透明性や説明責任の高い公平なルールに従い推し進められるべきだと主張を続けています。日本は1954年のコロンボプラン加盟以降からODAでアジア地域の経済・社会インフラを長年にわたり支援していること、中央アジアへは独立後の1991年以降から今日に至るまでの約30年間、そしてアジア開発銀行(ADB)経由で相当な額な支援を実施してきています。このような貢献については今日のBRIの枠組みに合致する支援でもあり、過去の累計支援額でもBRIを凌駕していると考えられますが、政治的にはBRIの枠組みに合致する支援ということは今のことろ言及しない姿勢であると見ております。

中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道プロジェクト

Photograph: Siyang Xue

BRIの枠組みで、2013年に中国が支援を表明した、中国からイラン、トルコを経由して欧州に繋がる中央アジアを貫通するユーラシア大陸を縦断する鉄道プロジェクトの構想が長年ありました。それは、中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道プロジェクトです。今回のBRIフォーラムでも3ヵ国の首脳間での協議がありました。中国の西方・新疆ウイグル自治区のカシュガルを起点にウズベキスタンの東部に位置するアンディジャンをつなぐ鉄道で、キルギスのナリン州またはオシュ州を通過することを想定した超巨大鉄道建設プロジェクトです。

ウズベキスタンとキルギスは内陸国(ウズベキスタンは二重内陸国)で、周辺の国々や欧州等へと繋がる運輸網は、両国の経済開発のために重要なインフラとして期待されています。世銀によるLogistics Performance Indexにおいて2018年、全160ヵ国中、キルギスは108位、ウズベキスタンは99位と、経済開発のために重要なロジスティクス面で大きな課題を抱えています(なお、カザフスタンは国内の運輸アクセス網を整備したことも影響し、71位)。ウズベキスタンは、2016年のカリモフ前大統領からの体制転換以降、周辺国との関係強化を進めており、ウズベキスタンとキルギス両国間の新たな関係を鑑みると、本プロジェクトを進めたい意志があると考えられます。ウズベキスタンは、中国の借款支援ですでに首都タシケントから東部に山岳地域に位置するアングレン-パップ鉄道建設事業を完了し、国内の輸送網を強化しています。

1998年に実施されたフィージビリティ・スタディー(事業化調査)では、中国のイルケシュタム(キルギスのナリン州との国境地点)から、サリ・タシュを通過して、オシュからウズベキスタンのアンディジャンに繋がる総計600キロが計画されていました。しかし、その20年後には、キルギス国内の通過ルートを決めることが課題となっていました。最近では。2017年7月に、キルギスのアタムバエフ前大統領が、キルギスを通過しても、大きな都市部を通過しないことから、キルギス国内の区間はただ単に通過するだけであり、投資をしても経済効果が極めて限定的であることを問題視し、また通過するポイントもオシュではなく、ジャララバードとすることなども言及していました。山岳国キルギスを通過するため、3000メートル級の山々を通過する路線でかつ、50個以上のトンネル建設が伴うといわれ、総工費は20から30億ドルともいわれる巨額プロジェクトになります。キルギスの経済状況を見ますと、すでに外国からの債務が、44億ドルまで膨れ上がっていると言われ、さらにそのうち3分の1は中国による借款が占めている状況で新規の巨額借款を受けることは国家財政上、容易ではありません。

そのような中、キルギス政府が仮に中国から鉄道プロジェクトのために巨額の借款を借りるとした場合、中国の借款プロジェクトでは中国企業や中国人労働者が活用されて、キルギス国内の企業や市民が関与する機会が限られることを国民は理解しており、キルギス国内では反中感情が非常に高まっていることからも、国民感情に配慮した対応をとる必要があります。中国による海外の借款プロジェクトでは、例えば、ケニアのモンバサ港事業や、スリランカのハンバントータ港事業の事例では、債務返済の代替として港のリース権を譲渡するなどの事態が発生しており、キルギスも債務を返済できない状況に陥った場合、土地を譲渡するような事態に陥る可能性があり、その際は、キルギス・中国の間の関係に大きな影響を与えるリスクを有しています。

キルギス政府は、本事業を実施するにあたっては、中国借款により、債務の罠に落ちないよう資金源の確保の多様化、ウズベキスタン政府とキルギスの経済にプラスになるよう、3ヵ国間でのルートの調整を慎重に行う必要があります。

中央アジア諸国共通のシルク・ビザ構想

上記のような中央アジア諸国内および周辺国やユーラシア大陸との運輸・物流ネットワークの整備と並行して存在するのが、中央アジア諸国内での移動を自由化するシルク・ビザ(Silk Visa)構想です。ヨーロッパにおけるシェンゲン・ビザのように域内の移動を自由化し、観光や経済活動を促進するものとして期待されています。

近年、特に2016年9月のウズベキスタンでの政権交代後、中央アジア諸国内の国境の再開(主に、ウズベキスタンとキルギス間とウズベキスタンとタジキスタンの間)に伴い、域内の人々に移動が活発になっています。2019年2月にウズベキスタンは、45ヵ国を対象に30日間のビザ免除の緩和措置を導入し、顕著なシルクロード世界文化遺産を有するウズベキスタンへの海外からの旅行客が増加していますが、トルクメニスタンはビザ取得が必要です。従来対外的にビザ免除に保守的であった中央アジア諸国にとっては、共通ビザの導入は理想ではありますが、そう簡単なものではないように考えられています。

上述の中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道のような域内の物流や運輸交通インフラの整備は、過去、中国による借款だけでなく、日本による円借款、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、イスラム開銀(IsDB)等数多くの機関により支援されてきており、特にウズベキスタンの政権交代後の新リーダーであるミルジヨエフ大統領による自由化改革は、中央アジア域内の協力関係にも影響を与えています。長年の課題であった域内の連携性強化による中央アジア諸国のさらなる発展が期待されています。カザフスタンの大統領が最近変わったことも将来さらに域内協力の状況にポジティブに影響を与える可能性もあります。域内の貿易は域外に比べると非常に限られていたところ、現在ウズベキスタンはWTO加盟に向けて準備を進めているといわれており、加盟が実現すれば、すでに加盟済のカザフスタン、キルギス、タジキスタンとの交易関係にプラスになるといわれています。

世界銀行のリリア・ブルンシウク中央アジア局長は、「ポーランドから上海まで貨物を一つ送るほうが、中央アジアのどこかから域外へ輸送するよりも早くできる」と言及しているように、中央アジア諸国内の物流・輸送インフラの整備、域内の国境通過・税関手続きの問題が大きく絡み、欧州からは中央アジアを経由しないルートのほうが効果的にモノの輸送ができる状況にあるのが現在の状況です。中央アジアは域内の連携性を強化し、外的世界との関係をこれまで以上に強化し、地域の発展に繋げることを大きく期待されています。

キルギスのウラン炭鉱に関する環境汚染問題と市民デモ

4月22日に、キルギスのイシククリ州バリクチという町で200-300の住民が環境被害の問題を提起し、キジル・オンポル(Kyzyl Ompol)にあるウラン鉱山の採掘事業に反対する抗議デモを行いました。このデモは26日には首都ビシュケクでの国会議事堂前での大規模デモに発展し、国内での大きな関心事となりました。 これらの抗議デモ活動を受けて、キルギス政府は事態を重く受け止め、27日には環境影響評価が終了するまで、ウラン炭鉱採掘事業を行うUrAsia社の活動ライセンスを停止する措置を取りました。先進国ではよくあることかもしれませんが、中央アジアでこのような抗議デモが起こり、政府の意思決定に影響を与えるようなことは、キルギスのみで見られる独特のことです。最近では5月1日に隣のカザフスタンでヌル・スルタン(アスタナ)、アルマトゥ、セメイ、カラガンダ、アクトベの各都市で大統領の繰り上げ選挙と首都アスタナの改名に反対する抗議デモに数百人が参加しましたが、80名あまりが拘束されるような事態となっており、抗議デモに対する対応は厳しいものとなっています。

Photograph: John Skewes

「中央アジア+日本」対話・第7回外相会合の開催

5月18日、タジキスタンの首都ドゥシャンベで「中央アジア+日本」対話・第7回外相会合が開催されました。日本は、中国やロシアと隣接し、豊富なエネルギー資源がある中央アジアへの関与を強めようと、2004年から定期的に外相会合を開いています。近年では、米国、韓国、欧州連合(EU)、インドなどが中央アジア諸国とC5+1のフォーマットで外交的な会合を開催しておりますが、日本はかなり前より中央アジア諸国との外交枠組みを開始し、今日までODAを中心として各国そして地域内協力の推進に貢献してきました。

今回の会合では、河野・外務大臣が出席し、中国が一帯一路などで中央アジアへの影響力を高めていることを念頭に、日本は中央アジア諸国に対して、透明性や財政の健全性など国際スタンダードに沿った質の高いインフラの整備やビジネス環境の改善を推進していくことを表明しました。中央アジアにおける観光振興に向けて人材交流などの支援を行うことや、日本からの観光客の増加につなげるため、1つのビザで中央アジア5か国への入国が可能になる新たな仕組みの導入を検討すること(上述のシルク・ビザに相当と考えられる)になりました。また、今回の会合にはアフガニスタンの外相もゲスト参加し、中央アジアとアフガニスタンの広域における平和と安全のための協力についても話し合いが行われたことも大きな特徴でした。

今回の外相会合では、日本と中央アジア5ヵ国による「共同声明」とともに、観光を中心に、農業や運輸・物流分野についてもフォローアップする「行動計画」を採択しました。今回の外相会合ですが、これまで以上に、中国の中央アジアへの影響を意識しているような印象を受けました。行動計画について今まで以上に、包括的な内容となっており、ODA予算が中々拡大できない中、オールジャパンで官民そして学術界を含めた、日本の中央アジアへの関与をわかりやすく打ち出した内容となっているよう思いました。日本は、独立後初期からの中央アジア諸国の重要パートナーとして、地域内協力の触媒としての役割をこれまで以上に発揮することが求められています。日本は、2015年10月の安倍総理による歴史的な中央アジア5ヵ国歴訪のフォローアップを進める中央アジア外交の重要な時期にいるのではないでしょうか。

Photograph: Ninara

ラオスとキルギスの比較

話は少し変わりますが、筆者は5月に東南アジアのラオスを訪問する機会がありました。ラオスはインドシナ半島に位置する内陸国で、共産主義から市場経済への移行、経済インフラ整備、社会セクターの整備、農業生産性の強化、輸出力増強など、キルギスが抱える開発課題と類似しているよう考えました。ラオスの経済を支えるのは豊富な水資源を利用した発電、金と銅といった資源の採掘と輸出、そしてタイをはじめとする地域内への出稼ぎ労働者のようです。水資源とクルトール鉱山、ロシアやカザフスタンへの出稼ぎ労働がキルギスの経済を主に支えていることを考えると類似しているよう見えます。

周辺国との関係においても、ラオスはインドシナ地域における経済水準低位国であり、地域のハブである点でタイがカザフスタン、域内で経済水準が比較的高い点でベトナムがウズベキスタン、内戦を経験した点でカンボジアはタジキスタン、国を長年閉ざしていたという点でミャンマーがトルクメニスタンと重ね合わせてみえます。国際関係の視点においては、ラオスは旧宗主国のフランスの影響が文化面等ではありながら(キルギスは旧ソ連の覇権国ロシアの影響が非常に強い)、現在は北に国境を接する中国からの経済面での影響が非常に大きいことも、キルギスとの同類項です。一帯一路戦略事業の一つとして、中国ラオス鉄道プロジェクトがあり、これはラオスと中国の国境ボーテンから世界遺産都市ルアンパバーンを経由し、ビエンチャンを結ぶ運輸ネットワークとあり、2021年の運行開始を目指しています。もし、この路線が完成し、上述の中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道の建設が進めば、将来ラオスから中国内陸部をとおり、キルギスそしてウズベキスタンへモノとヒトの移動が可能になることが想像されます。東南アジアと中央アジアが中国を経由して繋がるとは、なかなか想像することもありませんでしたが、中国の一対一路構想のスケールの大きさを物語ります。

ラオスとキルギスの1つ大きな違いは、日本との繋がりと言えます。東南アジアに位置するラオスは地理的にも日本に近く、他の東南アジア諸国には劣りますが、ラオスには140社ほどの日系企業が進出し、活動しているようです。キルギスに進出している企業は6社ほどであることを考えると、日本との経済的なつながりにおいては、大きな違いがあります。また、東南アジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)という地域共同体を中心に域内の協力関係を長年推進してきております。この点においても、中央アジア5か国は、ロシアや中国が主導権を握るユーラシア経済連合(EAEU)や上海協力機構(SCO)といった国際的枠組みには参加しているものの、中央アジア諸国だけの国際的枠組みを有しない点も大きな違いと言えますが、ウズベキスタンの体制転換後に、中央アジア諸国間の連携が強化されつつある現在、ASEANやEUのような地域共同体は中央アジア諸国の連携においてもモデルになると考えられます。

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