インド

ノーベル平和賞受賞者が語る「児童労働問題解決のための行動着手」とは?

Photo: ACE

認定NPO法人ACE設立のきっかけとなった、ノーベル平和賞受賞者カイラシュ・サティヤルティ氏。同氏の語る「児童労働問題解決のための行動着手」とは?

国際労働機関(ILO)の最新の発表によると世界の子どもの9人に1人にあたる約1.7億人の子どもが児童労働に従事している。19世紀に奴隷制度が廃止されたものの、危険で有害な状況で子どもたちが働かされる状況は現代でも存続し続けているのだ。

カイラシュ・サティヤルティ氏は、奴隷状態で働かされていた子どもたちの解放と社会復帰に取り組み、2014年にノーベル平和賞を受賞した人権活動家だ。

国内外で児童労働のない社会を目指し活動している認定NPO法人ACEは、2016年に同氏を日本に招聘し、2,000人を超える人々へ児童労働の問題を訴えかけた。

労働を余儀なくされる子どもの救出―カイラシュ・サティヤルティ氏の功績

カイラシュ氏は、1954年にインドのマディヤ・プラデーシュ州ヴィディシャーで上級カーストとして生まれた。大学では電気工学を専攻し電気技師となる。売春宿へ送られようとしている少女の救出依頼を受け、助け出したことをきっかけに人権活動家に転身した。1980年すべての子どもを搾取から自由にし、教育を与えることを目的とした「南アジア奴隷解放連盟(BBA/SACCS)」を設立。親や市民からの情報をもとに児童労働の調査をし、地元政府・警察と共に、児童労働の現場から子どもを守る救出活動、救出した子どもの社会復帰支援を行な、これまでにインド国内で約7.8万人の子どもを児童労働から救出し、1.5万人以上の子どもの社会復帰支援を行ってきた。

1998年には「児童労働に反対するグローバルマーチ」を発起し、世界110カ国で2,000以上のNGOなどの組織と計8万kmを練り歩いた。この「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本で開催するために学生5人が立ち上がったことから、ACEの活動は始まった。その翌年、この運動の成果もあり、国際労働機関(ILO)は「最悪の形態の児童労働条約」を定めた。市民を巻き込んだ運動が、児童労働問題の解決へと舵を切らせたのだ。

カイラシュ氏はノーベル平和賞受賞スピーチの中で「人類が直面する最大の危機は不寛容である」と語った。児童労働問題を解決するためには、その問題を他人事とはせず、多くの有志・一般の消費者が行動を起こすことが必要であるということだ。

カイラシュ氏自身も、児童労働のないカーペット製品を認定する団体「グットウィーブ」を立ち上げたことで南アジアのカーペット業界で働いていた子どもの数を、15年間で約100万人から約20万人に減少させた。児童労働のないカーペット製品を購入するという消費者一人ひとりの意識の変化で児童労働はなくすことができると証明したのである。

カイラシュ氏の言葉で世界が児童労働問題に目を向けるように。日本のNGO・ACEも、同問題の解決のために全力で取り組む。

インド、ガーナ、日本を中心とした世界で活動を行うACEは、子どもの権利が保障され、すべての子どもが希望を持って安心して暮らせる社会を目指し活動を行っている。活動の一つ、「ピース・インド プロジェクト」はコットン生産地での危険な児童労働から子どもを守り、就学を徹底することを目的としたプロジェクトである。

働く子どもの家庭訪問や雇い主であるコットン農家との話し合いを通じた子どもの公立学校への就学徹底、また女の子の自立支援や貧困家庭の親への収入向上支援などを行うことで、貧困と児童労働の悪循環を断ち切れるよう取り組んでいる。

子どもたちに対してアプローチするだけではなく、その親やコミュニティに対して働きかけを行い、教育の大切さへの理解を浸透させることで、住民主体での児童労働のない村づくりを目指す。同団体の活動によって2010年のプロジェクト開始からの累計で551人の子どもがコットン栽培などの労働をやめて教育を受けられるようになった。

しかし、カイラシュ氏の言葉を借りると、このプロジェクトを真の成功に導くためには、ACEの努力だけではなく多くの賛同者の協力が不可欠である。児童労働が起きている現場での取り組みだけでは児童労働の発生は止められず、その要因にもなっている私たち先進国の人間が「児童労働をなくすこと」を意識した行動をとることが必要なのである。
さまざまな協力の方法があるが、消費行動での心がけだけではなく、寄付や支援での協力も大きなアクションとなろう。「遊ぶ、学ぶ、笑う」ことが全ての子どもたちにとって当たり前の、児童労働のない社会を目指しこれからもACEの挑戦は続く。

この記事は榎本未希(Readyforインターン)により参考資料をもとに書かれたものです。


参考資料
認定NPO法人ACE. 2014. ノーベル平和賞受賞者カイラシュ・サティヤルティ氏について.
認定NPO法人ACE. 2015年度年次報告書.
Bachpan Bachao Andolon. About Us.
GLOBAL MARCH. Who We Are.


インド南部のテランガナ州の村のコットン畑で働く女の子たちの母親を対象とした収入向上プロジェクト

認定NPO法人ACEは、インドのコットン生産地域で、子どもを学校に通わせることができない母親を対象とした収入向上のトレーニングなどを行うためのクラウドファンディングに挑戦しています。5月31日(水)午後11:00までに、4,000,000円以上集まった場合に成立となります。この地域では、「子どもを学校に通わせたいが、収入が低いことが原因で働いてもらわざるを得ない」と語るお母さんたちがいます。ACEは、ピース・インド プロジェクトの一環として、この地域の子どもたちが教育を受けることができるように、様々な支援活動を行なっています。プロジェクトやクラウドファンディングの紹介はこちらから。

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